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forget me not   作者: 陽向
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【こんばんは】と。


 さて、次に何を書こう。

 ただ今、パソコンと睨めっこ絶賛開催中です。

 こんばんはと書いてから、かれこれ十分は経っている。

 文章を書くことがこんなに大変だと感じたことはあまりなかった。


 国語の授業で作文や小論文を書くことは苦手ではなかった。

 数学などとは違い、答えが一つではない国語の世界。その中でも作文などは一番奥深いとも思っていた。

 同じ文章を読んで同じ考えを持っていたとしても、文章にするとそれぞれの個性が出てくる。そこに各々の考え方が入ってくるとさらに文章に深みが増す。それがとても面白い。だから文章を書くことは好きだ。

 文章を書くことが好き、と思っていたがそれとこれとは今は別である。

 只今、私が書いているのは一個人宛に送る文章。

 読む人はたった一人、されど一人。

 それが私を悩ませる。

 そもそもメッセージって、こんなに悩んで書くものではない気がする。

 もっと気軽に楽しく人と繋がる、そういうものだよね? 難しく考えてるのは私だけど、これは性分だから仕方ない気が…


「あんた、一人で何唸ってるのよ?」

「わぁぁっ⁉︎ だから後ろからいきなり話しかけないで!」


 パソコンが置いてあるテーブルで突っ伏していたら、どうやら唸っていたようだ。

 背後から話しかけていた母親に驚き、飛び起きた。

 それにしても、やっぱり気配なかったんですけどお母様??


 帰宅後、食事をとり入浴を済ませてからいつものようにパソコンを開くとメッセージが来ていた。


【おはよう。

 大学生ってひとくくりに言っても、いろんなヤツがいるかね。

 俺は中身が成長していないってよく言われる。お子ちゃまってことかな(笑)


 土日にバイトって偉いね。感心、感心。

 バイトは平日にも入ってるの?

 今日は夕方から友人と買い物。付き添いです!

 

 追伸:夕ご飯にマロンが働いているお店に行くかもよ♪】


 AM8:24。朝からパソコンを開くマメな人。

 休日だから昼過ぎまで寝たりしないのかな?

 追伸は相変わらずの甘めで、それでも嫌味がない文章。

 こういうのに慣れているんだろうか。女性はこんな文章を送ったら喜ぶみたいな心得があったり、そういうの全部計算して作っていたりするのかな。

 

“あんまり真剣に考えすぎると疲れるよ、こういうの。軽い気持ちで楽しめばいいんだよ。折角、同んじ趣味の人に逢えたんでしょ?”


 暗く沈みかける思考の中に林さんの言葉が頭を過ぎった。

 そうだよ、私だっていい人そうだと思った。だからこんなに慎重になってしまう。もう前みたいな失敗を繰り返さないように。

 真面目になり過ぎない、楽しむ。

 この出逢いを大切にするんだ。

 だって、こんなにも同じ趣味を持つ人に出逢えて、あんなに素敵な音楽に出逢えたんだから。

 そのことにまず感謝しなきゃ。

 軽く肩を回しパソコンに向き直る。


【こんばんは。

 ヤエさんがお子ちゃまなら、私もお子ちゃまです。一緒ですね。

 

 買い物、楽しめましたか?

 バイトは土日だけで、今日やっとCDを手に入れました。かなり良かったです。

 あと予定になかったのですが、もう一枚買ってしまいました。

 ヤエさんの影響ですかね?

 

 追伸:バイトは17時に上がったので、来れませんよ。残念です 笑】


 思うがままに文章にしてみる。

 以前よりもかなり砕けた文章。相手にとって不快にならないものだろうかと心配になる。

 それでも、楽しむと決めた。相手を気にして自分を作り過ぎない。ありのままの自分で。

 意を決して、送信ボタンを押す。

 カチっという、軽い音がパソコンのキーから鳴り、ふーと大きく息を吐いた。

 これでよし、と。

 友人の近況は見終わっていて、メッセージも送信した。いつもならここでパソコンをシャットダウンする。だが、今日はまだ落とす気はない。

 マウスに手を置き、ホームボタンをクリックする。

“日記を書く”

 すぐに目に入った一番目立つボタンをクリックした。今日購入したCDを聴きながら、軽快にキーを叩く。


【マロンです。

 初めて日記書きます。よろしくお願いします。


 早速ですが音楽ネタです。

 今日はCDを3枚買いました。

 そのうちの一枚は運命の出逢いです。

 ハマりました。最高です。

 

 blossom nameless  “REAL”


 特に1.6.8.12がオススメです。】



 この日、私は初めて日記を投稿した。






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