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forget me not   作者: 陽向
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6

 帰宅するとまず父親に謝罪した。

 扉を開けてリビングに入ってきた途端に土下座をする娘の姿にかなり動揺した父親は、手に持っていたビールのグラスを危うく落としそうになっていたが、事情を話すといつもの優しい笑みでパソコンなら昼間に使用したが何の問題もなかったと言われた。

 よかった故障していなかった。新しいものを買わなくてすむ。母親にも怒られないし、何よりもメッセージが読める!

 最後に本音が出ていたが流した。


 鞄に入っていたケーキを冷蔵庫にしまい、部屋で着替えを済ませするとすぐに夕食になった。

 今日のメニューは鳥の唐揚げ。これも大好物だ。

 本当になんて良い日なんだろ。こんなことで運を使い果たしていないかと心配になるが、そんな心配するだけ損だと母親に言われそうなのでネガティブ思考を一旦頭の隅に追いやった。

 夕食後は父親に入浴の順番を代わってもらい、烏の行水のように入浴を終わらせた。

 ちなみに我が家では入浴順が決まっている。ほとんどは私が一番だが、父親がいるときは大黒柱が一番という絶対的なルールを母親が決めていた。

 今日は代わってもらえたが、母親の視線がかなり痛かった。母親と一緒に観たいテレビがあるからと父親がフォローしてくれたから助かったが。

 リビングに戻ると相変わらずのラブラブっぷりで、二人でソファーに並んで座りテレビを観ていた。

 その姿を見て暫く呆然としてしまったが、父親にも感謝も込めて手を合わせた。まるで拝んでるみたいだったけど。


 いつものようにカフェオレを作り、今日はもう一方の手で冷蔵庫から出したケーキとフォークを持つ。

 いつもの定位置に腰掛け、パソコンを起動させた。

 ケーキはベイクドチーズケーキだった。

 これも大好物だ。私の好きなものを知っている店長は流石。そして好きなお店のケーキを購入してきてくれた理恵さんたちは、店長の考えが全てお見通しだったと言うことだろう。

 この時間にケーキは正直避けたいが、折角の好意を無駄には出来ない。ありがたく頂戴する。まぁ、端から食べないという選択肢はない。

 今日は本当に良い日だ。何度目かわからない言葉を心の中で呟いた。


 いつものページを開くと、そこにはあのお知らせがあった。

 気になる…気になるがいつもの流れを崩すのは自分の中でかなり抵抗がある。しばらく葛藤していたが、友人たちの近況から覗くことにした。

 一通り見終わってホームに戻る。お知らせを開く前に中途半端なケーキとカフェオレが冷めてきていたので少し食べて、心を落ち着かせた。

 ダメだ…なんでこんなに動揺しているんだろう。

 たかがメッセージ。

 それをやりとりしてるだけなんだからと自分に言いきかせた。


【こんばんは。バイトお疲れさま。

 実物見ると大人ってイメージ崩れると思うよ。


 ホントに趣味が一緒で嬉しいな。

 CDはかなりいい曲ばかりだったよ。明日購入した後に話せるのが楽しみだ。


 追伸:バイトは何をしてるの? 高校生のバイト姿って初々しくて可愛い 笑】



 完璧に脳内フリーズ。

 だから何で、何だって、そんなに追伸が甘いの⁈

 追伸になってない、そっちに目がいってしまう。

 いや本題だったらもっと大変だけど、笑 って全く笑えないから!

 かなり動揺して、今椅子から転びましたから‼︎

 両親もビックリしてましたよ。慌てて誤魔化したけど。本気にしたらどうするの⁈ 

 ってか、これって冗談だよね…?

 だって大学生だもん。高校生は子どもだと思ってからかっているに違いない。

 男の人とのやりとりが久々だったから舞い上がってしまったんだ。

 忘れたの? あの時、イヤと言うほど思い知ったのに。

 そうだ、冗談だよ。私を相手にするはずない。私なんか…

 そう考えると何故か胸がチクリと痛んだ。もう少し私が大人なら、こんなに動揺することもなかったのかも。

 高揚した気持ちが一気に冷めていった。

 小さく頭を振り、画面を見つめる。


【こんばんは。

 バイト先に大学生の先輩がいます。

 その方たちはすごく大人ですよ。


 明日もバイトなのでその後にCDを買いに行きます。


 追伸:バイトはラーメン屋です。】


 残っていたケーキとカフェオレを一気に食し、パソコンを落とすと洗い物を急いで済まし自室に向かった。

 ついさっきまで今日は素敵な日だったのに、今の気分は最悪だった。

 寝るにはまだ早いが今日は疲れたのだからと自分に言い聞かせて、布団を頭まで被った。

 その夜はなかなか寝付けなかった。





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