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クリスマスイブ、当日。
私は待ち合わせの場所に来ていた。
昨日は眠れず、気が付けば空が白くなっていた。ずっと悩んでいた。それでも結局、答えを出すことは出来ずに朝を迎えてしまった。
今の時間は十六時三十分。約束の時間まで後三十分と迫っていた。
こうして赴いていても、まだ結論は出ていない。
逢った方が良いのか逢わない方が良いのか。
私はウチュウに嘘を付いている。自分の容姿に関することは全てデタラメだった。だから彼がこの場に来ても私を見つけることはできないだろう。
そして私自身もウチュウの容姿を全く知らない。ウチュウからの質問には答えていたが、逢うことはないのだからと私からは全くしなかった。
しかし彼は、服装の特徴を言っていた。
私が何も聞いてこなかったことに気がついていたのだろう。そして逢うことを躊躇っていることも気が付いている。だからもし待ち合わせ場所に来たら私から見つけてほしいと言うことなのだろう。
その時間と選択を、私は彼から与えられた。
猶予をもらったのだろうか。それは何の猶予だろう。許しを請うためのものなのか、罪を裁いてもらう為のものか。
“ハルはハルだよ”
どんな姿を見ても彼はそう言ってくれるのかな。真実を知られてしまうことがとても恐ろしかった。
実際の私を見て幻滅して失望してしまったら。
ーーこんな奴だと思わなかった。そんな目で見られるなんて睨まれてるみたいだ。逢わなきゃ良かった。
もしそんなことを言われたら、本当に立ち直れない。
自分の容姿に自信を持てない心は、周りからの視線や言葉一つ一つが気になって仕方なくなっていた。もしかして私のことを言っているのではないだろうか。そんな不安が消えない。
知らない人ならなおのことだ。
どうしたらいいのだろ。
どうしたら…
答えが出ぬまま俯いていた耳に軽快な音楽が響く。
駅に設置された大きなからくり時計から奏でられる十七時を知らせる音。
その音は時間切れを知らせる、悲しい音に今は聴こえた。
彼は来ているのだろうか。
今は一応目立つことがないように、柱の陰に隠れている。そこから顔を出し辺りを見回す。
帰宅時間が迫ってきた駅前は、家路に着く人や、買い物に行く人などで賑わっている。
ざっと見ただけでも黒のコートを着ている人は沢山居た。むしろ黒しか見えないぐらい。でも彼はそれに黒と白のボーダーのマフラーをしてくると言っていた。
そんなマフラーをしていたらすぐにわかるだろう。目印をマフラーだけに絞り探し始めた。
十五分ほど辺りを見渡してみたが、特徴であるマフラーをしている人物を発見することができなかった。
ほっと、小さな溜息が出た。
彼は来なかった。そのことに残念に感じている自分もいるが、それより安堵している自分が勝っている。
これで良かったんだ。逢わないほうがいい。これでいい。
もしかしたら何かの理由で約束の時間に遅れてるのかもしれないが、先に帰ってしまったと伝えよう。やはり逢わないほうが良いのだと、ウチュウへの言い訳を考える。
そして以前のようなチャットだけの関係に戻ろうと改めて決意し、今日の所はもう帰ろうと歩きだそうと向きを変えたとき目の前に影が差した。
目線を上げると、黒いコートに黒と白のボーダーのマフラーが目に入る。
思わず呼吸をすることを忘れてしまう。冷静な自分の行動とは逆に心はざわめく。
ゆっくりと息を吸い込み目線を上げてゆくと長身と目線が合った。
思わず瞠目してしまう。
「こんにちは、陸野さん。いや、こんばんはかな?」
「えっと、隣のクラスの…」
「そう。知っててくれたんだ。嬉しいな」
「有名だから。みんなカッコいいって言ってるし。それに武道場は剣道部と空手部は一緒だから」
ドキドキして落ち着かない胸をどうにか抑えながら、頭をフル回転させる。
冷静に彼の質問に応えつつも、頭の中はパンク寸前だ。
今の状況をうまく整理出来ない。
クリスマスイブの今日、私はウチュウと待ち合わせをしていた。時間は十七時。
その時間はもう二十分も過ぎている。
その間、辺りを見渡していたが黒と白のボーダーのマフラーを身に付けた人物を発見することは出来なかった。その為、帰ろうとしていたところで山下と遭遇したのだ。
偶然にも彼はその黒と白のボーダーのマフラーをしている。
まさか、いや、でも。
先ほどから今の状況を整理していても同じ所で躓く。
行きつく答えは一つしか浮かばない。
そんなことはないと、全力で否定していた。
「部活のときは良く会っているね。胴着姿の陸野さんをよく見かけるよ」
「こんなところで逢うなんで偶然だね」
ウチュウは男性。
「陸野さんこそ、こんなところで何しているの? ここ、隣町の駅だよ」
「ちょっ、と、用事があって…」
ウチュウは、同じ中学一年生。
「そう。俺は待ち合わせをしているんだ」
「そ、そうなんだ…」
ウチュウは同じ県内に住んでいる。
「君も誰かを待っているんじゃないの? さっきから辺りを見回しているし」
「…気のせいだよ」
ウチュウは空手部に所属している。
「嘘はよくないよ。ずっと見ていたから分かる」
「!?」
ウチュウは黒のコートで黒と白のボーダーのマフラーをしている。
「誰を探しているの?」
「それは…」
綺麗な顔の少年が少し首を傾げて顔を近づけ、瞳を覗いてくる。
心臓がとび跳ね、目が見開いてしまう。
ずっと見ていたと彼は言っていた。私が柱の陰に隠れてウチュウを探している姿を。
どうして彼は私を見ていたのだろう。ただ存在に気がついただけならすぐに話しかければいいのに。
それをしないで彼は私の姿を見張っていた。どう行動するか見ていた。
そして帰ろうとした姿を見て話しかけてきた。
まるで痺れを切らしたように。ここに居るよと、存在を示しているかのように。
それではまるで彼が私のことを、いやウチュウがハルのことを初めから知っていたとしか―…
「陸野 悠さん。俺の名前知ってる?」
「や、山下君」
「正解。山下“たかひろ”っていうんだよ」
「!?」
彼はポケットから生徒手帳を取り出し、写真が付いている裏面を見せてくる。
「“宇宙”って書いて“宇宙”って読むんだ」
「ウチュウ…」
「ハル。ずっとこうして話したいと思っていた」
彼はそう言って、力が抜けきり垂れ下がっているだけの私の手を取り握り締めた。
黒と白のボーダーマフラーは、スノースマイルの藤くんイメージ。




