≪Ⅸ≫メルに触れていると【1】
≪Ⅸ≫メルに触れていると
朝です。心地好い目覚め…かどうか分かりませんが、とにかくいつもの寝起きな私です。ええ、当たり前のように背中にヴォルがいます。昨夜あんな怖い夕食を終えたのに、ヴォルは全くいつも通りの行動でした。
「起きたのか、メル。」
「はい、おはようございます。」
挨拶を交わすと、漸く腕の力を緩めてもらえます。それまではずっとヴォルの腕の中。ん~、慣れてしまった私が怖いです。でも、居心地良いのですよね。
「朝食を食べたら船に乗る。」
「もう出発なのですか?」
「そうだ。昨日手続きを済ませてある。」
い、いつの間に。昨日はヴォル、片眼鏡と頻繁に火花を散らしていたような気がしますけど。あ、そう言えばセントラルでは人とあまり話さなかったって…。あっちでも片眼鏡のような人にあんな風に四六時中付きまとわれたら、私も人間が嫌いになりそうですよ。
でも今まで見てきたヴォルは、案外誰にでも人当たり良く接していたと思います。明らかにあの片眼鏡に対するように、バチバチと攻撃的な対応はしていませんでした。
「あの…、片眼鏡さんはヴォルとどのような関係なのですか?」
荷物をまとめているヴォルに問い掛けます。仲が悪そうだという事しか、私には分かりませんでした。
「…セントラルでの俺の世話役だ。」
世話役?先生とは違うのですよね。親兄弟でもなくて…、メイド…じゃなくて執事さんでしょうか。
「セントラルって、みんなお金持ちなんですか?メイドさんとか執事さんとかが普通にいるのでしょうか。」
お話の中のセレブな世界です。村にはいませんでしたよ、そういった誰かにお仕えする職業の人。
「さぁな。」
あ、話の追求を逃れましたね?ヴォルはセントラルの事、必要以上に話したがらないです。行けば分かるとか、そう言うのだと困るのですけど。ただでさえ、私は殆ど情報をもらっていないのですから。あの片眼鏡もここで会わなければ、現地であれを言われていた事になります。
「ヴォル、私は結構不利な立場にいますよ。このままサバイバルな旅が続くのなら構いませんが、大勢の人の中に入っていかなければならないのでしたら話は変わります。情報の提示を求めます。」
出発の準備が整ったであろうヴォルを引き留めます。はっきりさせて下さらないと、私は誘拐とサバイバルな旅以上の困難に立ち向かわなければならない事になります。しかも、一人で。
「……。」
無言ですか。でも、おかしくないですか?あ、今更ですが。そもそも、セントラルで皇帝様の前で式を挙げる。これって普通ではないですよね?




