7.一緒に行かないか【2】
それ以外に考えられませんでした。私って毎度の事ながら、ヴォルに迷惑を掛ける天才ですね。
「不満か。」
ヴォルの視線が真っ直ぐ私を見下ろします。青緑の瞳が私を映しました。不満、って…何ですか?こんなに役に立たない私に、どうしてそこまでしてくれるのでしょう。
「ヴォルは…、私が邪魔ではないのですか?」
思った事を口にしていました。それを聞いたヴォルの瞳が、僅かに細められます。でも何も答えてはくれませんでした。肯定、なのですか?…そうですよね、私はヴォルに迷惑しかかけていませんし。
「…良いです。分かっていますから…。」
前に向き直ると、私は静かに唇を噛みます。そうでもしないと、泣いてしまいそうでした。
そうです。私は飾りとして用意される結婚相手。飾れる程綺麗でも何でもないですが、いるだけで良いのでしょうから顔は二の次なのですよ。た、たぶんです。
「セントラルって、美人さんが多いですか?」
それでも少し心配になって、ヴォルに質問してみました。
「容姿の事か。…個人の主観による。」
それはそうなのですけど。
「…森を抜ける。」
悶々と考えていた私は、ヴォルのその声と共に開けた視界に驚いて目を閉じました。眩しいです。瞼を通しても分かる真っ白な光に、眩しさを我慢して何とか目を開けます。青でした。光る青だったのです。
「ぅわー…っ!」
「海だ。」
後ろからヴォルが教えてくれます。
「これが…、海…。」
初めて見た海は、青く広くずっと先まで続いていました。空と交わる向こうまで、ずっと。以前に見た湖とは、比べ物にならない程の大きさでした。
「ここがマグドリア大陸の端だ。」
マグドリア大陸…。それが私が生まれ育った大陸だったのですね。
あ、本当に知らなかったのですからね?私のいた農村では、子供への教育は簡単な算数と国語だけです。勉強を習うなんて生活の余裕はないのですから、親から子供へ生きる為の最低限の知識を教えるだけです。
「大丈夫か、メル。」
「え?あ、大丈夫です。」
またまた心配させてしまいました。ヴォルは自分が話さないのは気にしないのに、私が静かすぎると変に思うようです。無駄に自分の世界に浸らないようにしなくてはなりません。
「この先の港から船に乗る。」
「はい、分かりました。」
少し高台になっていたので、迂回するように海に沿って左に回ります。恐る恐る下を覗き込んでみます。海に繋がる場所は、このように切り立った崖になっているのですね。大きな音を立ててぶつかる海は、この土地を削り取ろうとしているようにも思えました。




