1.メルとなら構わない【4】
「こっちを向け、メル。」
「む、む、無理ですっ!」
何を言っているのでしょう、この人は。今まで旅をしていて、こんな状況は初めてですよっ。
「メル。」
静かに告げるヴォルの言葉に、身動きのとれない私は硬直するしかありませんでした。
「メル。」
耳元で囁かれ、背筋をゾクリと甘い痺れが走ります。困りました、本当に。私、一体どうしたのでしょうか。
「だ…だって…。」
力付くではないにしろ、私の意思に反してヴォルの方を振り向かされました。えっと、目を開けられません。
「メル。俺を見て。」
キツく目をつむっている私の頬に手を当てて、ヴォルが優しく声を掛けてきます。それでも…。
「メル。」
「ぅきゃっ?!」
突然横腹を触られ、私は悲鳴なのかなんなのか分からない声をあげてしまいました。そして咄嗟の事に目を開けてしまったのです。
目の前、吐息が触れそうな距離にヴォルがいます。そのあまりの近距離に、私の顔は一気に真っ赤になってしまいました。
「赤い。」
「だだだだだ、だって…っ!」
ツンツンと頬をつつかれ、私は目のやり場に困って…あれ?ヴォル、服を着ています。一応薄手の下着的な服でしたが、裸ではありませんでした。ホッとしましたよ。
「汗を流したかったのだろう。」
そんな私の気持ちなど気付いていないのでしょうが、ヴォルのいつもの無表情が心なしか不思議そうでした。
「は、はい。それは…、そうです。」
「いつも風呂に入れる訳ではないからな。」
少しばかり申し訳なさそうなヴォル。いくら私でも、この思いきりアウトドアな旅でそこまで求めていません。それに今までは比較的サッパリとした気候だったので、それ程気になりませんでした。
「か、感謝しています。あの…出来れば、もう少し穏やかに入浴したかったです。…贅沢ですけど。」
心の中で一人で、と付け足しましたが。村にいた時には当たり前にあった、一人でのんびりと入る毎日のお風呂。でも旅に出てからは、宿屋にいる時くらいしかお風呂はありません。出来るのは川やヴォルの用意してくれた水で顔を洗うくらい。
「俺は構わない。」
私が気になるんですって!こうもアッサリと答えられると、私の方がおかしい気になりますよ。




