≪ⅩⅡ≫わざとらしいな【1】
≪ⅩⅡ≫わざとらしいな
「あっ、あの注文を忘れてたっ。」
大きな声で叫びながら、行商のお姉さんを追いかけていくベンダーツさん。
「わざとらしいな、アイツ。」
「仕方がないですよ。マクストリア様はセレシーデさんに夢中ですから。」
呆れたように呟いたヴォルの声に返したのは、赤ちゃんをその腕に抱いたガルシアさんでした。
おむつを変え終わりご機嫌になった黒茶髪で赤茶の瞳をした赤ちゃんを、そっとヴォルへ差し出します。
「はい、お父様ですよ?」
「…キュアル。」
危なげなくヴォルの腕に抱かれ、ニッコリと微笑んだキュアル。
「本当にお母様にそっくりの優しい顔立ちの王子様ですね。」
「すっかり腰も据わったな。…ところで、メルは大丈夫なのか?」
肩の辺りにキュアルの頭を固定すると、ヴォルは座っていた丸太から腰をあげました。
ここマヌサワは、小さいながらも砦が作られています。
セントラルからの派遣という形で、魔法石の管理者という立場のヴォルが主でした。
「はい。先程伺いましたが、だいぶ悪阻も落ち着いてきています。」
真っ直ぐ姿勢良く立つガルシアさんの姿は、侍女長さんを引退された今でも健在です。
ここに住む事が正式に決定して、ヴォルとベンダーツさん、そして私が移り住む時にガルシアさんは一緒に来てくれました。
「そうか…。」
「ですが、ヴォルティ様ももう少しお考えくださいませ。第一子を出産して、すぐ第二子のご懐妊だなんて…メルシャ様のご負担は相当なものですよ。」
「…すまない。」
心配している上に自身の責任も問われ、ヴォルは申し訳なさそうに項垂れてしまいます。
「はい、分かったのならば結構です。反省だけならば獣でも出来ますから、次からはきちんとお考えくださいませ。」
ヴォルへもハッキリ告げるガルシアさんでした。
「それはそうと、ここの人口もまた増えそうですね。」
ガルシアさんは話を変えるように、ニッコリとヴォルに笑みを向けます。
その視線の先には、先程走っていったベンダーツさんと行商人の女性が仲良く寄り添っていました。
「…そうだな。アイツは手が遅いのか早いのか…ここに来て三年、懲りずに毎回彼女に絡んでいたようだ。」
「まぁ、絡むだなんて。心を決めた女性に再三挑戦する事は、悪い事ではないですよ?…さぁ、私はそろそろ食事の準備を致します。ヴォルティ様、キュアル様を宜しくお願いしますね。」
「あぁ、分かった。」
一通り話終わると、ガルシアさんは仕事に戻っていきます。
ヴォルはキュアルを肩に抱き、そのまま砦へと足を向けました。




