10.願いを一つだけ【3】
「ほら、固まってないで自分で尻拭いしなって。」
「…あ、いや…違うぞ、メル。」
ベンダーツさんに言われて、漸く再起動したヴォル。
あたふたと伸ばしていた手を振り、私へ話し掛けます。
「だから…その、俺は…。」
しどろもどろになっているヴォルの声に、私は強く閉じていた瞳をソッと開けます。
顔を赤くして慌てているヴォルを見て、私はストンと納得出来てしまいました。
「俺は俺の為にやったのであって…その、メルがいない世界は不要で…。」
「ヴォルが私を望んでくれたのですか?」
懸命に言葉を紡ぐヴォルへ、私は自身の心に浮かんだ問いをそのまま向けます。
「そ、そうだ。メルの命を取り戻せるなら、俺のい…。」
「それ以上はダメです。」
続けられようとしたヴォルの言葉を、私は自分の指を彼の唇に当てる事で止めました。
すぐに命を捨てようとしてはダメです。
私は精霊さんを通じて気持ちを伝えました。
「…ひゃっ!?」
ですが直後起きた出来事に驚き、私は変な声をあげてヴォルへ伸ばしていた手をしまいます。
何故って、舐められたのですよっ?…って言うか、今そんな雰囲気ではなかったですよね!?
視線を向けた先のヴォルは、ニヤッと悪そうな笑みを浮かべていました。
「もぅ!」
私はムッとして彼に背を向けます。
「きゃっ!」
って、もうっ!
おかしな叫び声ばかりをあげてしまう私でした。
背を向けた瞬間、勢い良くヴォルの腕の中へ抱き締められてしまったのです。
「マーク。俺の腕はまだか。」
そのままの体勢で、ベンダーツさんへ問い掛けるヴォルでした。
「ったく、現金なヤツだなぁ。まだだよ、もう暫く焦れてろ。」
呆れたようなムッとしたような複雑な顔で、ベンダーツさんは製作途中の腕を振って見せます。
「片手でも出来なくはないが…。」
小さく呟かれたヴォルの言葉に、私はギョッとして身体を固くしました。
「ちょっと、俺がいる事を忘れないでよ?」
私の反応に気付いてか、ベンダーツさんがこちらを見る事なく告げます。
「…分かってる。」
「どうだか。」
渋々返答を返したヴォルへ、ベンダーツさんから冷たい言葉がぶつけられました。
あ…こんな時になんですが、何だか先程の話がうやむやになっている事に気付きましたよ。
「あの、ヴォル?私の中の精霊さんは、どうなるのでしょうか。」
「…いずれメルと同化する。意思の疎通も出来なくなるだろうな。」
突然の問いに一瞬止まった後、ヴォルは、いつものように真っ直ぐな返答を返してくれました。
その瞳の奥にはまだ熱が見えましたが、私の意識はその時既に自身の内側へ向いていたのです。




