7.不得手を狙うしかない【2】
あの蜥蜴…やってくれる。
この火山を粉砕する為、俺はかなりの魔力を左手に集めていたのだ。
『ヴォル、アイツが凍り付いて来たよっ!』
ベンダーツの嬉しそうな声で我に返る。
『…あぁ。鱗が変色してきたら砕ける前兆だ。目一杯撃ち込んでおけ。』
『了解~。丸裸にしてやるっ!』
俺は気力を奮い立たせ、逆にベンダーツを煽ってやった。実際には、カツを入れられたのは自分の方なのだが。
そして俺は、再度火山へ鋭い視線を向ける。山に恨みはないが、現状を打開する為に必要な破壊だ。
最後となった魔力を込めた宝石を取り出し、噛み砕く。
この火山を崩壊させたとしても、竜が滅する訳ではないのだ。それでもここまで力の差があるならば、やれるだけの事しか出来ない。
魔力を使い果たせば、魔力所持者は役立たず。…俺は?
フッ。知れた事。
俺は、俺だ。
迷いは消えた。俺は、再び左手に氷の魔力を集中させる。
『やるぞ!』
竜がベンダーツへ掛かりっきりになっている隙に、俺は巨大な氷の玉を作り上げた。
そして山肌へ向けて放つ。
白く輝く魔法球が深々と大地にめり込み、一瞬の静寂が訪れた。
『マーク、伏せろ!』
次に起こる展開に、俺はベンダーツへ警告を促す。
ドン…と言う震動が身体を通して伝わった。グツグツ、グラグラと大地が鳴動している。
と、次の瞬間に全てが吹き飛んだ。
元より俺に音は聞こえなかったが、身体中に有り得ない程の衝撃波を感じる。
結界の障壁を再度十枚にしてあったが、この距離で水蒸気爆発の直撃を浴びる気はない。
俺は火山一帯を覆う結界を即座に作った。
だがそれは、予想以上の爆発だったのである。
周囲の視界を取り戻した時、辺りの景色が一変した事に少なからず驚いた。
目前に迫っていた山が跡形もなくなり、小さな島の景色が広がっていたのである。
『ヒュー、さすがだねぇ。』
ベンダーツの茶化した声が聞こえた。
『生きてる…な。』
俺は溜め息と共に言葉を吐き出す。
竜が空中にその全身を表していた。それでも頑丈な身体は鱗が剥がれ落ち、肉体的にも半分以上の黒く焦げた部位は確認出来る。
赤い鱗の下は、火に耐性が弱かった筈だ。
『まだやれる?』
『やるしかないからな。』
ベンダーツの問いに、俺は自嘲気味に答える。
そうだ。やれるかどうか…ではなく、やるしかないのだから。




