≪Ⅶ≫不得手を狙うしかない【1】
≪Ⅶ≫不得手を狙うしかない
『赤い鱗には氷の魔法が効果的だった。その内の肉には炎だ。あの竜は魔法に対する抵抗力も強い。不得手を狙うしかないだろ。』
淡々と言い放ってみせたが、実際の俺の内心は穏やかではなかった。
もう、後がないのだ。
『分かったよぉ。んじゃ、俺は赤い鱗を剥がしてやる。丸裸にしてやるから覚悟しておけよぉ。』
にこやかな表情とは逆に、ベンダーツはその手に白い魔力で生成された弓を力強く握っている。
俺の魔力と相性が良いのか、コイツは苦もなく魔法を操るんだ。これで非能力者なのだから笑える。
『俺は竜を攻撃しつつ、山を破壊する。』
魔物を見据え、俺は風の魔力を身に纏った。
『メル、どうしてるかなぁ。』
俺が宙に浮かぶ瞬間、ベンダーツの何気ない呟きが聞こえる。
そんなの、気になっているに決まっている。
ここについてから、既に半日程が経っていた。空が赤くなってきているのを見ると、余計に時間が経過した気がする。
だが、今は竜と戦うのみ。
俺は勢い良く空へと舞い上がった。
相変わらず、俺達を観察している竜である。舞い上がった俺と視線を同じくしても、少しも動じた素振りを見せなかった。
『行くぞ。』
『はいは~い。』
俺の号令に、楽しそうな返答を返してくるベンダーツ。
だがそれも良いかもしれないと、何故だか不意に思う。城にいた頃は、少しでも気を許せば殺されかねない針山だったのだ。
意識を切り替え、水魔法をのせた剣から水刃を繰り出して飛ばしつつ近寄る。
俺は火山の中心へ魔力をぶつけるべく、氷の魔力を左手に集中し始めた。
『ヴォル、狙われてるよ!』
ベンダーツの注意に、竜へ振り返る。
いつの間に距離を縮められていたのか、向けられた長い尾を鞭のように振るわれた。
グッ!
避ける間もなく山に叩き付けられ、障壁が一気に砕け散った。
『ヴォルっ!』
悲鳴のようなベンダーツの声に、土煙の中から天の剣だけを上げてみせる。
『…のヤロ!』
カッとなったベンダーツは俺の渡した氷魔法を使い、竜へ氷の矢を連射し始めた。
『あまり無駄に使うなよ?』
呆れを含んで声を掛けるが、そうする事でアイツなりに敵の目を自分へ向けているのかもしれない。
それならばと、俺は起き上がりつつ自身の状態を確認する。結界が辛うじて二枚残っていた為、肉体的損傷はなかった。
だが左手に集中していた氷の魔力は霧散してしまい、残念な事に全く残っていなかったのである。




