6.逃げろっ【2】
空中にいた俺は大した防御も出来ず、とにかく両腕で顔を覆っていた。
…生きては、いる。
詰めていた息を吐き出すが、全身が溶けそうな程に熱かった。完全に結界を壊されたのである。十枚もの障壁を、たったの一撃でだ。
俺は腕を下ろしながら、自身の身体を確認する。結界に守られたからか、軽い火傷程度で済んでいた。
だが、魔力が残り僅かだ。目眩がする為、空中浮遊を継続出来ない。
俺は落ちるのと大差ない速度で降り、到着する寸前に一瞬だけ落下を止めてから大地へ足をつけた。
そして再び山を見上げたが、竜の方は火山を覗き込んだまま動かない。
アレは本当に卵だったのだろうか。
ベンダーツは無事だろうか。
メル…。
とりとめもなく溢れる思考。
立っていられない程の疲労に、俺は崩れ落ちるようにその場に膝をついた。肩で息をしながら、身に付けていた宝石の一つを取り出す。
まさか、ここまで苦戦するとは思っていなかった。何だ、あの魔物は。規格外だろ。
…愚痴が出るならまだやれるな。
俺は自分の思考に苦笑を浮かべ、そして宝石を噛み砕いた。
ちなみに食べる為ではない。これは俺自身の魔力を込めた物であり、それを砕く事で内部に蓄積された魔力を再度己の力として吸収するのだ。
…暫く休めば、この目眩も治まる。
問題は、魔力が回復しても打つ手があまりないという事だ。アレは強すぎる。
竜へ視線を向けるが、先程と変わらず火山を覗き込んだままだった。
余裕だな、全く。俺の魔力が回復した事くらい感付いているだろうに。人間の俺ですら、あの竜が火山に降り立ってから回復していっている事に気付いているのだ。
さて、いつまでも休んではいられないな。完全回復されれば、また同じ事を繰り返さなくてはならない。
俺は軽く頭を振るって、僅かに残る目眩を誤魔化す。立ち上がりながら確認した天の剣は、魔法で包んでいた為か刃毀れ一つしていなかった。
まだやれる。
魔力を強制的に回復させたとは言え、俺は端から見たら満身創痍だった。それでも今は休んでいる暇もなく、況して回復などを行うゆとりもない。
やるしかないんだ。
俺は風の魔力を全身に纏った。天の剣に冷気を宿す。暫く休ませた為に、竜の鱗が修復してきているのだ。
あの強さで自己修復とか、規格外にもほどがある。




