≪Ⅵ≫逃げろっ【１】
≪Ⅵ≫逃げろっ
竜の外的損傷は、体表の五割を超える程になっている。だが、同時に俺の魔力もかなり消耗してきていた。
そんな事を思考の片隅で思っていると、次の一撃を当てた直後に動きがある。魔物がその巨大な翼を広げたのだ。
口を大きく開き、咆哮しているようにも見える。生憎と音は聞こえないが、周囲の空気が震えている事は感じられた。
そして…、飛んだ。幾度も翼で空気を打ち、その巨体が宙に浮き上がっていく。
不意に白い閃光が竜へ向かって飛んできた。
だが当たる直前に一際大きく羽ばたいた魔物は、その閃光の遥か上空に飛び上がっていたのである。
白い閃光は風の魔力。ベンダーツが放った、俺の風魔法の矢だった。
あれ程力を込めたのならば、最早石は崩壊してしまっているかもしれない。
…等と思考に沈みかけた時、再び空気が大きく震えた。
竜の咆哮なのは分かるが。…と、魔物の視線の先を追ってみた。
火山の中央に存在する赤と茶の斑模様をした球体。
それに突き刺さる魔法の矢。
卵…？
予想外の展開に思考が停止する中、ピリピリと魔法の矢を中心に殻がひび割れていく。
グパッ。
音が聞こえたら、そんな感じではないだろうか。
割れた中から赤黒い何かが溢れ、火山の中に消えていった。
突如襲い掛かる威圧感。
先程までの敵意は戯れだったと言わんばかりの、高圧的な殺意が広がる。
「逃げろっ！！」
勢い良く矢が飛んできた…ベンダーツのいると思われる方向へ顔を向け、俺は叫んでいた。
だが、音速は光速よりも遥かに遅い。
周囲が異常に白く光ったかと思うと、俺の視線の先へ何かが飛ばされた。
…光線。今まで見たブレス等とは比べ物にならない質量だった。
一気にその周辺の大地が吹き飛び、掻き消える。
「ベ…ダー…？」
音の聞こえない俺の耳では判別が出来なかったが、自然と声が漏れてしまった…と思う。
実際に姿が見える程の距離ではなかった為、正確な場所ではなかったかもしれない。だが…。
次の瞬間、俺の意識とは別に身体が反応した。
先程と同様の光線が、俺のすぐ目の前を通過したのである。
「っ！！」
目を見開いて息を呑むが、避けられたのは一度だけだった。
竜へ意識を戻した時には既に遅く、次の光線が真正面からぶつかってくる。とてもではないが対応出来なかった。
視界が白く塗り潰される。熱波が身体を包み込んだ。
