5.戦闘開始だ【2】
可能な限りの風を圧縮し、巨大な刃として魔物に叩き付ける。
ゴウッと空気が鳴くが、当たる手前で魔物の咆哮によって掻き消されてしまった。
「Daichi no kiba.」
続けて放った土元素、大地の牙は魔物に当たると同時に強度が足りず砕け散る。
『防御力、高すぎじゃね?』
ベンダーツの言葉は無視。
答えている暇がなかった。
「Honoo no tama.」
火の元素を使い、特大の火炎球を投げ付けた。
同時にベンダーツが風の弓矢を放ち、相乗効果でより大きな攻撃になる。
だが、ヤツは何を思ったのかそれを口で受け止めた。否、食ったと言うべきか。
『何…、アレ。』
「…食われた。」
ベンダーツの呟きが聞こえたが、さすがの俺も一瞬唖然としてしまっていた。
「っ、来る!」
発動したままだった魔力感知による脊髄反射で、俺は頭で考えるよりも先に身体が防御を行う。
それでも攻撃に耐えきれず、咄嗟に何重も作り上げた結界の障壁が幾つか砕け散る音が聞こえた。
魔物は軽く火焔を放った程度。その証拠に、先程の位置と寸分違わない場所でこちらを見ている。
見て…そうだ、俺は観察されていた。
相手は四元素魔力が効かないし、攻撃力と防御力は半端ない。
対して、俺は魔力値が高いだけの人間…。
…そうか。
「俺は人間だったんだな。」
思わず口に出た思いに、ベンダーツが呆れたように答える。
『はあ?何言ってんの、当たり前じゃん。規格外の魔物を相手にして、何処か壊れちゃった?』
相変わらずの口の悪さである。だが、言っている事はまんざら外れていなかった。
俺はこの魔物と対峙して、初めてこの事を自覚した感がある。
「…強いな、この魔物。」
『それでもやんなきゃ、でしょう。』
ハッキリとベンダーツに告げられた。
こういう時のコイツは強い。
「あぁ。」
苦笑いが浮かぶ自分に嫌気がさす。
『魔法攻撃がいまいち効果がないようだから、ここは正統派で物理攻撃っしょ。』
「分かった。マークはそのまま風魔法の矢を放て。それは魔法攻撃と物理攻撃の両方の特性をもつ。石が砕けても構わない。俺は…、ヤツに近付いて攻撃をする。」
俺も覚悟を決めなくては。
危険は承知。しかもあの高温の身体だ。
竜は以前として火山の頂上にいる。山頂部が砕けた山は、時折痙攣するように熔岩を吐き出していた。
とてもではないが、魔力を持たないベンダーツが近付ける場所ではない。
そしてベンダーツに渡してある魔力を込めた宝石は、限界値を越えると砂のように砕けてしまう。そうなれば例え近付けたとしても、アレへの攻撃方法がなくなるのだ。




