2.アイツが良いのか【4】
不意に意識が戻りました。
えっと…、私は何をしていたのでしょうか。
瞬きを繰り返し、現状の把握に努めます。
何故だか、買い物に出ていたベンダーツさんが目の前にいますね。…しかも、怒っています。
その向こうにはヴォルが…、項垂れていました。
何故?
「あ…、あの…?」
私が声を掛けると、二人が驚いた様に振り向きます。
ど、どうしましょうか。突然声を掛けては、いけなかったのでしょうか。
「メル?!大丈夫か?何処か痛いところはないか?苦しくない?気持ち悪かったりしない?」
怒濤のごとくベンダーツさんに問い掛けられ、私は答える隙もありません。
とにかく、壊れた人形の様に首を縦に振り続けました。
「よ…、良かった~…。」
途端に力が抜けたように、先程まで座っていた椅子へ腰を落としたベンダーツさんです。
と言うか、質問の意図が分かりませんでした。
私は疑問を浮かべた視線を、そのままヴォルへ向けます。が…苦い顔をされた後、すぐに視線を逸らされました。
えぇっ!?何がありましたっ?
「あ、今このバカは放っといて。」
私の視線に気が付いたのか、ベンダーツさんが冷たく言い放ちます。
んん?バ…カって、どうしたのです!?
何故だか私の知らないところで、ヴォルとベンダーツさんがケンカしてます?
「…あ~、覚えてない?ヴォルに落とされたの。」
落とす…ですか?
言葉の意味が分からず、小首を傾げてしまいました。
「あ、ゴメンゴメン。えっと、気絶したんだけど。」
私の反応に苦笑いしながら、ベンダーツさんは言い直してくれます。
と言うか…。
「気絶ですか?」
思わず心の叫びが声に出てしまいました。
それに一番反応したのがヴォルです。
ビクッと肩を震わせ、顔は俯きつつも視線だけこちらに向いていました。
怒られた小さい子供のようです。
「そ。…このバカ、力加減もしないでメルを抱き締めるもんだから!」
プンプンと音が聞こえそうな程に怒っているベンダーツさんです。
抱き…って、あぁ…あの時の…。
どうやら私はあの後、呼吸困難のあまり意識を失ったようです。
そこへ戻ってきたベンダーツさんに物凄く怒られ、ヴォルがこんな風にシュンとしている訳ですね。
何だか捨てられた子犬のようで、とても可愛く思えるのですけど…どうしましょう。頭を撫でたいです。
「ったく…夕飯を作ってくれるって言うから期待してたのに、戻ってきたらメルは意識不明だしヴォルは自分を見失ってるし…。」
ブツブツ文句を言い続けるベンダーツさんの横から、私は項垂れるヴォルを見つめていました。
えぇ、撫で撫でしたい衝動を必死に抑えていたのです。




