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「結婚しよう。」  作者: まひる
第十章
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2.アイツが良いのか【4】

 不意に意識が戻りました。


 えっと…、私は何をしていたのでしょうか。


 (マバタ)きを繰り返し、現状の把握に努めます。


 何故だか、買い物に出ていたベンダーツさんが目の前にいますね。…しかも、怒っています。


 その向こうにはヴォルが…、項垂れていました。


 何故?


「あ…、あの…?」


 私が声を掛けると、二人が驚いた様に振り向きます。


 ど、どうしましょうか。突然声を掛けては、いけなかったのでしょうか。


「メル?!大丈夫か?何処か痛いところはないか?苦しくない?気持ち悪かったりしない?」


 怒濤(ドトウ)のごとくベンダーツさんに問い掛けられ、私は答える隙もありません。


 とにかく、壊れた人形の様に首を縦に振り続けました。


「よ…、良かった~…。」


 途端に力が抜けたように、先程まで座っていた椅子へ腰を落としたベンダーツさんです。


 と言うか、質問の意図が分かりませんでした。


 私は疑問を浮かべた視線を、そのままヴォルへ向けます。が…苦い顔をされた後、すぐに視線を逸らされました。


 えぇっ!?何がありましたっ?


「あ、今このバカは放っといて。」


 私の視線に気が付いたのか、ベンダーツさんが冷たく言い放ちます。


 んん?バ…カって、どうしたのです!?


 何故だか私の知らないところで、ヴォルとベンダーツさんがケンカしてます?


「…あ~、覚えてない?ヴォルに落とされたの。」


 落とす…ですか?


 言葉の意味が分からず、小首を傾げてしまいました。


「あ、ゴメンゴメン。えっと、気絶したんだけど。」


 私の反応に苦笑いしながら、ベンダーツさんは言い直してくれます。


 と言うか…。


「気絶ですか?」


 思わず心の叫びが声に出てしまいました。


 それに一番反応したのがヴォルです。


 ビクッと肩を震わせ、顔は俯きつつも視線だけこちらに向いていました。


 怒られた小さい子供のようです。


「そ。…このバカ、力加減もしないでメルを抱き締めるもんだから!」


 プンプンと音が聞こえそうな程に怒っているベンダーツさんです。


 抱き…って、あぁ…あの時の…。


 どうやら私はあの後、呼吸困難のあまり意識を失ったようです。


 そこへ戻ってきたベンダーツさんに物凄く怒られ、ヴォルがこんな風にシュンとしている訳ですね。


 何だか捨てられた子犬のようで、とても可愛く思えるのですけど…どうしましょう。頭を撫でたいです。


「ったく…夕飯を作ってくれるって言うから期待してたのに、戻ってきたらメルは意識不明だしヴォルは自分を見失ってるし…。」


 ブツブツ文句を言い続けるベンダーツさんの横から、私は項垂れるヴォルを見つめていました。


 えぇ、撫で撫でしたい衝動を必死に抑えていたのです。



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