9.無理はしないつもりだ【5】
「肩、大丈夫ですか?」
調理をしている時も、ヴォルは僅かに左肩を庇っているように見えました。
「痛みはあるが昨日よりマシだ。」
「そうですか…。すみません、私が変わって色々と出来たら良いのですが。」
「問題ない。それよりも都度の謝罪は不愉快でもある。出来ない事を嘆くより、出来る事をした方が建設的だ。」
「…はい。」
そうですよね。いつまでもごめんなさいばかりでは本当の役立たずです。私はその後の片付けを率先して手伝いました。
言葉数の少ないヴォルですが、何の思いも抱いていない訳がないのですから。その瞳を良く見ます。目は口ほどに物を言うって、本当ですよね。
考えれば結構やれる事があります。勿論些細な事ですが、少しでもヴォルの負担を減らしたい一心でした。
「動きが変わったな。」
「ほぇ?」
突然声を掛けられ、惚けた声が出てしまいました。えっと、今…誉められました?
「あ、あの…ありがとうございますっ。」
誉めてくれた事が、私を見てくれている事がとても嬉しいです。そう言えば私、働いている時に余り誉められた記憶がないですね。
「メルは…コロコロ表情が変わる方が良い。」
「ありがとうございます…?」
えっと…、それって誉められているのか分かりにくいのですが。でもヴォルの瞳が優しいので、これは誉められているのでしょう。いえ、そう思いましょう。
「行くか。」
「あ、大丈夫なのですか?」
立ち上がったヴォルを追うように私も立ちます。
「…無理はしないつもりだ。」
「分かりました。」
とりあえずそう心掛けて下さるのなら、私がこれ以上言う事はないですね。急いでウマウマさんの手綱を引いて連れてきました。ヴォルはやはり、フワリと軽々ウマウマさんに乗ります。傍で手綱を握っていた私は、次の瞬間にはヴォルの右腕でウマウマさんに引き上げられていました。
「あ、ありがとうございます。」
「行くぞ。」
「はいっ。」
嬉しいですね。ヴォルはいつも私を気に掛けてくれます。初めは怖かった無表情も、今ではその瞳が雄弁に語る事を知りました。
「機嫌が良さそうだな。」
「えっ?………はい。」
後ろから私を抱き留めているのに、どうして分かるのか不思議です。それでも私は、今のホンワカとした気持ちがとても幸せでした。




