≪Ⅹ≫目障りだ【1】
≪Ⅹ≫目障りだ
ブワリ、と私の周囲に風が巻き起こります。
「何だぁ?」
肩を掴んでいる男性の不審な声と共に、私を捕らえる力が増しました。
「…も…、限界…です…っ。」
自分の中で必死に悪寒を抑え込んでいたのですが、鳥肌が立ち始めました。
プルプルと震える私に気付いたのか、その人が更に顔を近付かせる気配を感じました。
止めてください。それ以上…、近付かないで…っ。
私はギュッと瞳を閉じました。
キィイイイイインッ。
甲高い耳鳴りのような音が鳴り響きました。
そして次の瞬間、私の周囲にあった全ての不意に圧迫が消し飛びます。
「メル。」
馴染んだ体温に触れられ、知った匂いに包まれました。
あ…、ヴォルだ…と身体が悟ります。
でも極限の緊張の中にいた私は、そのまま意識を手放してしまったのでした。
「メル…。」
風の守護魔法が吹き荒れそうになる中で触れた彼女は、途端に糸が切れたように崩れ落ちた。
「…な、何なんだ…お前…っ。」
視界の隅に男が映る。
だが、どうでも良い事だった。今、俺の腕の中にはメルがいる。
それだけで心の空白が埋められた。
「お、おいっ…待てよっ!」
メルを抱き上げて踵を返した俺に、それは声を荒げて近付いてきた。
俺は冷たく視線を向けた。
腰に下げた剣を引き抜いてきたそれへ、俺は遠慮なく回し蹴りを食らわせる。
俺の両の手は今、メルで塞がっているのだ。
壁の方へ飛んでいったが、そちらを確認する事なく俺はこの階を去る事にする。廊下にある呻く輩を跨ぎつつ、最上階の部屋を目指した。
しかし、守護魔法には魔封石が効かない事が分かった。個別に魔力を放出しないからか、本来の能力を発揮しようとしていたのである。
メルは周囲へ損害を与える事自体避ける為か、己の心で無理に抑えていたようだった。それが精神に負荷をかけ、意識を失ったようである。
いつの間にか強くなっている。…いや、初めて出会った時から強かったか。
今では、ただ守られるだけでは足りないと言うのか。
俺は腕の中の彼女を見遣る。
こんなにも華奢で、すぐにも折れそうな身体をしているのに…彼女の心はとても強く温かい。
俺は主従のリングを通し、ベンダーツを呼んだ。
アイツにここの後始末をさせる為だ。
「どう…したんだよ。」
「目障りだ。片付けておけ。」
息 急き切って駆けてきたようなベンダーツに、俺は視線でそれ等を示す。
「了解~。」
溜め息を吐き、何処からか細い紐を取り出して男達を縛っていく。
慣れたもので、親指同士を繋げるだけなのだから紐は多くはいらない。
どちらにせよ、ここでは船員が秩序の番人である。つまりは、ただの乗客である俺達が裁く事は出来ないのだ。




