7.共にありたい【5】
「ほ、誉められても何も出ないですよ?」
普段誉められ慣れていないので、私は怖々と返してみます。
「…プッ。」
吹き出されました。でも、ベンダーツさんの笑顔も珍しいです。
あ、そうでもなかったですね。この人は笑い始めたら止まらないのでした。それに何か手伝うと言う申し出に対し、話を逸らされた気がするのは何故でしょうか。
私は少しだけ不満を乗せた表情をヴォルに向けました。
「メルは何かしたいのか。」
「はい…。魔物との戦いは全くダメですけど、何かお役に立ちたいのです。…ダメですか?」
何だか、こんなに必死になっているのが悲しくなって来ました。
何しろ特にこれといって特技がなく、大きな声で宣言出来ないのですから。
「問題ない。メルはメルのしたいようにやれば良い。俺はメルと共にあれば良い。」
ヴォルは淡々と告げました。
何を迷っている、と言うような言葉でした。
したい事…ですか。
私は自分が勝手に動くと、周りに迷惑を掛けると思って躊躇します。あれこれ考えている内にその機会を逃し、結局何も出来ずに終わるのでした。
「でも…、迷惑になったり…。」
「俺はメルと共にありたい。メルの行動で起こる事柄は全て受け入れる。先を見越して恐怖しても何も生まれない。…俺はメルを縛り付けたくはない。」
最後、僅かに痛そうに歪められた瞳を見てドキリとしました。
私がヴォルを苦しめています。
「何もしなくて良いと仰ったのはヴォルティ様です。メルシャ様は言葉通り受け止め過ぎですし、ヴォルティ様は言葉が足りな過ぎです。見事に互いが縛り付けあっていらっしゃいますよ。仲が宜しいのは結構ですが、一個人としての思考も必要ですからね。」
溜め息をつきそうなベンダーツさんですが、言われている事は分かりました。
私達を一番近くで見ているのですから、言われている事は間違ってはいない筈です。
「私、頑張って探します。何が出来るか分かりませんが、何もしないで怯えている事がないようにします。」
両手を拳に変え、私は意気込んで宣言しました。
「あぁ。」
「私は見守らせて頂きます。」
二人の温かい視線を受け、気持ちだけはとても強くなった私です。
でもここ、船の中でした。興奮していて気付かなかったですけど、まだこの時は動いていなかったんですよね。
これから五日程かけた船旅が始まります。忘れていましたけど、大陸間の移動は非常に体力を使うものでした。




