≪Ⅰ≫手が省(ハブ)ける【1】
≪Ⅰ≫手が省ける
ケストニアの町から再び北上し始めた私達は、その馬車の中に詰め込めるだけの食料等を乗せていました。
出来るだけ足を止めず、最短で港町に到着する為です。
「魔物の姿もあまり見なくなったねぇ。うん、平和だ~。」
御者台の上からベンダーツさんが呟いています。
そうなのです。あれ程たくさん、溢れんばかりにいた魔物に出会いません。通常運転に戻ったと言うか、ケストニアを離れてから特にその傾向がありました。
「ヴォルが討伐しすぎて、魔物が全滅でもしたかなぁ?」
「それならば手が省ける。お前も滅びたいか。」
「嫌だなぁ、冗談に決まってるじゃないかぁ。」
ふざけて食って掛かるベンダーツさんへ、不穏な言葉を返しているヴォルでした。
でも、彼等もこれが通常運転なのです。大分慣れましたよ。
馬車の中では相変わらずヴォルに抱き締められている私ですが、魔物遭遇率が低いのでかなりの運動不足気味です。
あ、私が討伐する訳ではないのですよ?勿論。それでも全く動かないという今よりは、避難の為の行動も運動の一種であったと感じるのでした。
お肉が気になります。特に、お腹や背中の…。大丈夫でしょうか。
「俺達は魔法石から離れた。それだけだ。魔力流出がなくなった今、魔物の興味は純粋に魔力を喰らう事だからな。」
「でも教会だけじゃなくて、ケストニアの町にも結界を張ったんだろう?それも、奉仕で。まぁ…あれだけの大きな魔法石があれば、どうしたって周囲の魔物を呼ぶから仕方がないんだけどさぁ。…で、魔力の継続は何にしたの?」
「教会内の魔法石だ。あの大きさの魔法石なら問題ない。」
「まぁ、教会と町全体の結界を依託したんじゃなぁ。小さな魔法石だと数年しか持たないだろうから、あって良かったってところだよねぇ。」
ケストニアの事情を、ヴォルとベンダーツさんが真面目な顔で話し合っています。
二人の話を聞いていて、私は不思議に思いました。
「お二人はいつ、教会の魔法石を見られたのですか?」
ずっと一緒にいましたよね。
「あれ?メルは気が付かなかったんだ。…あ~、大きすぎると逆に分からないってやつかな?木を隠すなら森の中、って本当だよね。…教会内の祭壇に見なかったかな、石像。」
「教会の、石像ですか?…もしかしてあの、精霊さんの形のですか?」
「あ、メル的には精霊だったんだ。あれ、魔法石だよ?あの大きさから言って、大型の魔物だろうね。それを切り削って加工してある、結構な代物だったんだけど。」
ベンダーツさんがさらりと告げる言葉です。
でも私は、ただ驚くばかりでした。あの大きな石像が魔法石だった事も、人為的に加工してある事にもです。
魔法石って、必ず命のそのままの形で使われる訳ではないのですね。




