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「結婚しよう。」  作者: まひる
第八章
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10.俺にも利(リ)がある事【4】

「それでは現地に行ってみなければ分からないと言う事ですね。」


 静かに告げられたヴォルの声にハッと我に返ります。


 現地に、ですか?


「そう言う事でもあるな。大きな町には魔力協会があるが、さすがに辺境の村では小さな教会に一名配属されているくらいだろう。魔法石での情報交換も遠距離では出来ないし、こちらから分かるのはあの辺りで現象が起きたという事だけだよ。しかし、何故ツヴァイス殿までもがあの村に(コダワ)るのだ?」


 協会長さんから不思議そうに問われ、私はヴォルを見上げます。


 よほど不安そうな目をしていたのでしょうか、頭をその大きな手で撫でられました。


「行った事があるのですよ、メルと共に。」


 (ワズ)かに親しみを込めてヴォルが答えます。


 そうなのです。私が貴族でない事すら、知っている人は多くありません。そしてマヌサワ村出身である事は、本当に(ゴク)一部の信頼ある人にしか知らされていないのでした。


「あぁ、三年程を旅していたのだったな。新婚旅行か?良いなぁ、ワシも…って、その話はどうでも良いな。見に行ってもらえるならそれは助かるが、ここからでは港すらないからなぁ。」


 協会長さんはどれ程の情報を持っているのかは分かりませんが、ヴォルの旅の理由が旅行扱いだったようです。


 ここケストニアの町はグレセシオ大陸南端です。そして大陸同士の移動手段は、北に位置するユースピア港とマグドリア大陸スワケット港とを結ぶ航路しかありませんでした。


 大陸を分断するエフィーオ海は大型客船で五日も掛かる程大きく、南端から仮に船を使うとなるとその倍では済まない程の距離があると言われていました。


「本当に不便だよねぇ、旅人にとってはさ。ここまで来るのもセントラルから結構掛かったのに、戻って港町に行ったところで船すら出せるかどうかってか?」


 ベンダーツさんが愚痴を(コボ)しています。


 ですが、冒険者達はそれが当たり前の世界です。陸路をウマウマさんで、海路を北から船で世界を巡るのですよね。


 そう思い返すと、私も結構な距離を旅した事になります。不思議ですよね、村で一生を過ごすと思っていたのに。


「ユースピア港の民は残念だろうが、船は魔法石化しないからな。輸出入もあるから、そこまで戻る頃には航路が回復しているのではないかね?」


 協会長さんは、セントラルの救援部隊が復興に一役(ヒトヤク)買ってくれるのだと言います。


「そうあってくれると助かるよぉ。セントラルに寄って救援要請してからになると、無駄に時間だけが掛かるからねぇ。まぁ、書類上の手続きの重要性も分からなくもないがさ。」


 両手を上にあげて見せ、首を横に振るベンダーツさんです。


 はい、ベンダーツさんはそれが仕事でした。立ち位置が変わると、その感じ方も変わるものですよね。



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