6.魔力以外を感じられない【4】
「あ~、面白かった。」
散々笑われ、私は何だか怒り疲れてしまいました。
ベンダーツさん、笑いだすと止まらなくなるみたいです。
「…もう良いです。」
「メルの方が可愛い。」
はい?
拗ねた私の言葉に、後ろからボソリと続けられたヴォルの声でした。
それで慌てて振り向こうとしましたが、何故だかガッシリと頭を押さえられてしまいます。
「な、どうしたのですかっ?!」
「問題ない。」
問題ないのなら、頭を放して欲しいのですけど。
「それなら何故頭を押さえるのです?」
「困るからだ。」
んん?どうして困るのでしょうか。
そんなやり取りをヴォルとしていると、またベンダーツさんがクスクスと笑っている事に気が付きました。
もう、一体何なのでしょうか。
私は溜め息をつき、頭を押さえる手に抵抗する事をやめました。
「…熱い…。」
聞こえるかどうかの囁きでした。
今の、ヴォルですよね?確かにいつもより掌の熱が高いです。…振り向きたいですけど、今はダメなのですよね?
未だにクスクス笑っているベンダーツさんでしたが、ヴォルの具合が本当に悪そうならこんなに楽しそうな筈がないですし。
「ヴォル?もう今は振り向かないですから、頭を放してください。」
「…分かった。すまない。」
謝罪の言葉と共に手を放されましたが、何だか複雑な心境です。…なんて思っていたのですが、そのまま後ろから抱き締めてきたヴォルの頭が私の肩に乗りました。
…赤い、です。
えっ?何がって、ヴォルの耳がですよっ。
キチンと見る事は出来ませんが、紺色の髪から覗く耳が真っ赤に染まっていました。
「もう、二人共最高だね。あ~、俺も嫁が欲しくなってきたなぁ。」
笑いを抑えるでもなく、ベンダーツさんはとても楽しそうです。
ヴォルも私もそれに対して何も言えず、ただ二人して固まっていたのでした。
「…明かりだ。」
呟くベンダーツの声に目を開ける。
辺りが暗くなっている事から、あれからかなり時間が過ぎているようだった。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「問題ない。それより…。」
すまなさそうなベンダーツから、前方より近付く光に視線を向けた。
そして魔力感知を展開、魔力認識。
方角からしてケストニアから来たのか。
「距離があるから分からないけど…人間?」
「魔力以外を感じられない。魔物だ。」
「マジ?でも、魔物が明かりなんか使うかねぇ?」
そんな事は俺にとってどうでも良い。
魔物か、そうでないかの区別だけで十分だ。




