1.異変が起きている【5】
あ、ヴォルが戻ってきました。
うぅ…っ、何だか緊張してしまいます。
「表情が固いって、メル。そんなんじゃ俺が何かしたみたいで、またヴォルに吹き飛ばされかねないでしょ。」
ベンダーツさんが困ったように告げます。
その言葉に、以前風の魔力で壁の上の方に引っ掛かった彼を思い出してしまいました。
「フフッ、そうですね。」
思わず笑ってしまった私ですが、ベンダーツさんは嫌な顔をせずに微笑んで頷いてくれました。
「戻ったぞ。…何やら楽しそうだな。」
結界を通り抜けたヴォルは、私達を見て僅かに眉をあげます。
「そうでしょ~。二人で楽しんでたもんね?」
ま、また変にヴォルの感情を煽る様な事を言わないでくださいよ。ほら、ヴォルの眉間にシワが浮かんでいますって。
「ほう?俺を使いに出しておいて、お前は…。」
「あっ、それがサガルットのマトトですかっ?!」
不穏な空気を察知し、私はヴォルの言葉を遮って問い掛けます。
あ、少しだけヴォルに睨まれました。…すみません。
「…そうだ。」
でも少しだけ息を吐き出すと、ヴォルは何事もなかったかのように私の問いに答えてくれました。私はそれを聞いて、安心してヴォルの手にしている麻袋を覗き込みます。
マトトだけではなく、色々な果物が入っていました。どれも艶があって美味しそうで、私のお腹がクゥと鳴きます。
「あ、あの…すみません…。」
恥ずかしくなって俯くと、ヴォルが優しく私の頭を撫でてくれます。
「どれでも好きなものを食べると良い。」
「は、はいっ。」
嬉々として袋に手を伸ばし、一番上に乗っていたマトトを取り出しました。鼻を近付け、その香りを楽しみます。
ん~、良い匂いです。…ん?ヴォルの表情が…。
「俺にももらえるんでしょ?」
「好きにしろ。」
「んじゃ、頂きます!とりあえずこのままかじっちゃお~っと。」
言うが早いか、ベンダーツさんがマトトを丸かじりします。
うわ~、美味しそうですっ。…あれ?やっぱりヴォルの眉間にシワが…。
「美味しいっ。ほら、メル。食べてみてよ、甘くて美味しいよっ。」
「あ、はい。あの…どうしたのですか、ヴォル。」
気になって問い掛けます。
「いや…、問題ない。」
「そうですか?…うん、美味しいですっ。」
気になりつつも私は手にしたマトトをかじり、その甘さに驚きました。臭みもなくて甘くて瑞々(ミズミズ)しくて、本当に果物のようです。
本来なら野菜なのですけどね。




