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「結婚しよう。」  作者: まひる
第七章
353/516

10.契約を破棄している【4】

 それからは早かったですよ。


 ヴォルが大きな魔物達を一つの大きな、本当に大きな結界に閉じ込めます。中では魔物達は暴れているようでしたが、それをものともせずに結界自体の大きさを縮めてしまいました。


 あっという間で良く分かりませんでしたが、黒い一つの塊にした後に透明の方の剣を…えっと、天の剣でしたよね?…あれを結界に刺していたように見えました。だって、その後に結界から漏れ出るように光が空に昇って行きましたから。


「早かったな、ヴォル。」


 帰ってきたヴォルに声を掛けるベンダーツさんです。でもヴォルはそれに答える事なく、何故だか私にしがみつきました。


 …って言うか、そうとしか思えないこのギュッと感です。えっと…、どうすれば良いのでしょうか。


「お帰りなさいです、ヴォル。」


 抱き締められていて少し苦しいのですが、私は少しだけ動く腕でヴォルの柔らかな紺色の髪を撫でました。


「あぁ…ただいま、メル。」


 私にくっついているのでそれはとても小さなくぐもった声でしたが、確かにヴォルが返事をしてくれました。エヘッ、嬉しいです。


「あ~…、まだここは二人きりじゃねぇぞぉ?」


 ベンダーツさんが片手で顔を覆って空を仰いでいます。


 凄く呆れているのでしょうね。でも私、これ以上動けませんけど。


「…分かった。」


 疲れているのでしょうけど、それでもヴォルが先に動きました。顔をあげ、町の人の結界へ意識を向けたようです。


 その途端、パシッと砕けるように魔法が散りましたから。足止めの為の氷も、拘束の為の結界もなくなりました。


「え~っと、後はそちらで何とかしてもらおうかな。俺達が口を出しても、民衆の感情は鎮まらないだろうしさ。とりあえず俺達はまだここにいるから、結果だけは教えに来てよ?…ってか、俺が町に行こうかな。何だか居づらいし。」


 ベンダーツさんが溜め息をつきました。


 未だにヴォルとくっついている私は、何だかとてもいたたまれないです。でも、ヴォルが放してくれないのですよ。


「い、行ってらっしゃいです。」


 ヒラヒラと手を振って結界を出ていくベンダーツさんを見送りました。


 戻っていくサガルットの人達、その後ろをついていくユーニキュアさんと幼馴染みのドガさんも見送ります。


「大丈夫…ですよね?」


「…当人次第だ。」


 大丈夫だと言って欲しかったのですけど、ヴォルはそんな期待だけさせるような事は言わないですよね。


 はい、分かっています。それもヴォルの優しさなのですから。



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