10.契約を破棄している【3】
「そうだよ、ブルーべ家の雇われ人の息子さ。でも、キュアの幼馴染みである事は変わらないだろ?」
「そんなの、言い訳にしかならないわよっ。」
「じゃあ、結婚を申し込んだ一人とでも言えば良いかい?」
離れた距離をものともせず、ユーニキュアさんと幼馴染みというドガさん?が言い合っています。音の精霊さん、凄いですね。いえ、魔力はヴォルのですけどね。
「そ、そんなのっ…そんな男性はいっぱいいるわよっ!」
「でもキュアは誰の求婚も、一度だって受けてはいないだろ?」
「あ、当たり前よっ。お父様がお認めにならないわっ。地位も権力も、全てブルーべ家の礎にならなくてはダメなんですもの!」
「そんなの、俺が認めさせるから。い、いや…何年かかるか分からないけどっ。でもだから、俺と結婚してくれっ。」
「ば…、バカ…。こんな風になった私へ、まだ求婚をするなんて…本当にドガはバカなんだから…。」
泣き崩れたユーニキュアさんは、先程までの攻撃的な感情も苦しそうな感情も見えませんでした。何だか、嬉しそうに涙しているのですから。
「何、結局父親に逆らえなかった娘の末路?しかもそこの男と恋仲とか、俺達が完全ピエロじゃん。って言うか、まだ魔物も残ってるしさ。どうすんのよ、アレ。」
ベンダーツさんが呟きます。確かに足を固定された町の人の向こうに、大型の魔物の群れがいるのです。
「消せば良い。」
「えっ?!」
思わず驚いて振り向いてしまいましたが、何だか簡単に答えたヴォルです。
「まぁ、元々俺達は魔物を討伐に来てるんだけどな。だけどまた戦うのぉ?」
「問題ない。マークは見ていろ。俺の魔法を使う。」
「そりゃ、その方が手っ取り早いけど…。力を残しておいてくれよ?まだ事態の終息には早いんだからさぁ。」
「承知した。」
ヴォルとベンダーツさんの話が終了したようです。って言うかですね、私には頭をポンポン撫でるだけですか?
「い、行ってらっしゃい…ですっ。」
「…行ってくる。」
何だか二人に交ざりたくて、既に背を向きかけたヴォルに声を掛けました。不安でしたが、ヴォルが振り返って応えてくれた時はとても嬉しかったです。自然と笑みが浮かびました。
「ぅわ~、笑顔で見送りとかって…。本当にヴォルの心を鷲掴みするのが上手だねぇ。そりゃ、サッサと帰って来たくなるわなぁ。」
呆れる様な口振りのベンダーツさんですが、だって私にはやれる事がないですもの。いつも待つだけなのです。
ヴォルの表情はいつもあまり変わらないですが、僅かに眉を寄せたりだとか気にしていると分かるのです。でも内緒ですけど、一番瞳が感情を浮かべますよね。




