4.何をやっている【5】
「アデッ!」
ドガッというような壁が破壊される音と、微妙なベンダーツさんの苦痛を告げる声が響きます。いえ、響いたように聞こえました。
「って、何をしてるのですかっ?!」
思わずヴォルに怒ってしまいました。ですがヴォル、何でもない風に視線を逸らしてしまったのです。いえ…視線を逸らしたという事は、多少は悪いと思っての事ですよね?
「そんな酷い事をしたらダメですっ。怪我をしたらどうするのですかっ。」
「…アイツはメルに手を出した。」
「そ、それはそうですけど…未遂ですっ。」
「当たり前だ。何かあってたまるかっ。」
…ん?あ、ヴォルがまた視線を逸らしました。でも今度は、僅かに頬が赤いです。
「大丈夫ですよ。だって、ヴォルの魔法がありますから。」
嬉しいです。自然と表情が綻んでしまうのは許してくださいね?
「俺の…魔法。」
「はい、ヴォルの守りの魔法です。先程も腕輪が熱くなって、風が私を守ってくれました。」
私の周りを囲むように、風が全てを吹き飛ばしてくれていたのです。
「…そうだな。」
「あ…でもあれ、改良出来ませんか?周囲全てを飛ばしてしまうと、周りに危険ではない人がいた場合にも同じ影響がありますよね?」
「ある。」
「それだと危なくないですか?」
「問題ない。発動条件はメルの拒絶だ。周囲からの救いを得られない場所でだからこそ、魔法の条件を満たすものとなる。」
そんなものですか?でも魔法をかけた本人が言うのですから大丈夫でしょう。…って、ベンダーツさんは飛んでしまいましたけど。あ、あれはベンダーツさんを妨げるものだったですね。ん~、難しいです。
「メルの拒絶を受けたものは、同時に俺からの攻撃対象にもなる。そう深く考えなくとも問題ない。」
「いや、結構問題あるんじゃないかな?」
ガラガラと重い物が崩れる音がして、砂埃にまみれたベンダーツさんが顔を出しました。
「良かったです、マークさん。怪我はしていませんか?」
「まぁね、壁を崩されて落ちただけだから。さすがに受け身は取れなかったけど、怪我をする高さでもなかったし?」
砂埃を叩きながら立ち上がったベンダーツさんは、言葉通り怪我などをしていないようです。でもヴォルは彼に鋭い視線を向けていました。
「おいおい、まだ怒っているのか?さすがにこれ以上は勘弁なんだけど。ったく、冗談か本気かの区別くらい出来ないのかよ。」
「次はない。」
ヴォルを呼ぶ為とはいえ、ベンダーツさんの行動は無謀だったようです。冗談を言う時は、相手の反応を考えなくてはなりません。




