4.何をやっている【2】
「ヴォル、頭…痛いです。」
ガッチリと腕の中に固定された頭の解放を願い、私は彼の服を引っ張りました。ですが中々腕の力を緩めてくれません。…お、怒っています?
「…勘弁してくれ。」
「え…?」
その声に怖々と視線を上げると、酷く疲れたようなヴォルがいました。でも目が合ったかと思うと、逸らすように私の肩に頭を埋めてしまいます。えっと…。
「大丈夫ですか?」
私は戸惑いつつ、腕を伸ばして彼の頭を撫でます。ちょうど項垂れているので、いつもは届かない私の手が届きました。うん、サラサラの濃紺の髪が心地よいです。
「…心配した。」
「はい?」
ボソリと呟かれ、再びギュッと身体を抱き締められます。ちょっと苦しいですけど、全身にヴォルの体温が伝わって心地好いです。
「…ごめんね、良い雰囲気のところ申し訳ないんだけど…。あの、降ろしてくれない?」
うっとりと瞳を閉じていた私ですが、その声の聞こえた方向に違和感を感じて相手を捜します。…いました。何故でしょうか。不思議です。
「どうしたのですか、マークさん。」
そう、彼がいる場所が思ったより高いところだったからです。勿論ヴォルの結界の内側ではありますが彼の足は地面に着いてなく、町長さんのお屋敷の壁の一部に引っ掛かるようにしてぶら下がっていました。
「いやぁ、俺にも良く分からないんだけどさぁ…。」
苦笑いのベンダーツさんですが、上手く引っ掛かっているようで揺すったりしても取れないようなのです。
「あ、あの…ヴォル?」
私の肩に顔を埋めたままのヴォルは、いっこうに動こうとしません。私も強く抱き締められているので動けませんし、一体どうしたら良いのですか。
「…放っておけ。」
あらら…、本当に怒っています?って言うかですね、そのまま私をベッドに押し倒さないでくださいよ。
「ヴォル~、ごめんっ。本当にごめん!俺が悪かった、本当にごめんっ。」
全くヴォルが助ける気配がないのを察したようで、ベンダーツさんは必死に謝り始めました。そうですよね、とりあえず私で遊びすぎたのですよね?…怖かったですけど。
「ヴォル、本当にごめんってばぁ。…こっち向いてくれないかなぁ?」
これ程必死にヴォルへ声を掛けるベンダーツさんを初めて見ましたけどね。…って、ヴォルは大丈夫だったのでしょうか。とても普通にここにいますけど、ゼブルさんを捜して交渉をしていたのではなかったですか?
私はそんな事を考えながらも、抱き枕状態のままヴォルの髪を撫で続けていました。




