≪Ⅲ≫異質な気配を纏う男がいた【1】
≪Ⅲ≫異質な気配を纏う男がいた
ところで、そのまま横になってしまったヴォルです。そりゃあ、ベッドはありますけどもね。
「あ、あの…ヴォル?」
「何だ、メル。」
瞳を閉じてはいるものの、眠ってはいないようです。私はベッドに腰掛けたまま、ヴォルの顔をずっと見ていました。
「動かないのですか?」
「あぁ。」
「…ずっとですか?」
「今はまだ、な。」
「…そうですか。」
今は動く時ではないという事ですかね。ベンダーツさん、大丈夫でしょうか。なんて…ボンヤリ考えていた私ですが、いつでも寝られる特性を持っている事を忘れていました。
「メル。」
「はい…?」
呼ばれて気付いた時には、何故か空が赤く色付いていました。嫌~、思い切り寝てしまっていたではないですかっ。慌てて身体を起こします。…あれ?私、ベッドに横になってましたっけ?
「す、すみません!眠ってしまいましたっ。」
「問題ない。むしろ身体を休められて良かった。漸く時が来たぞ。」
「え…?」
ヴォルの視線を追うと、その先にベンダーツさんがいました。いつのまに戻ってきたのでしょうか。などと思いつつ、彼の装いを確認します。はい、怪我などはしていないようですね。
「良く寝ていたねぇ、メル。俺が一人で一生懸命に情報収集している間、二人して何をしていたのかなぁ?」
ニヤニヤとした笑みを向けられ、私は一人でワタワタと慌ててしまいました。
「マーク、メルをからかうのはよせ。それよりもどうだったのだ。」
私はヴォルに頭を撫でられながら、熱くなった頬を両手で覆い隠します。
「あぁ、いたよ。思いもよらない人物がさ。」
…思いもよらない?
「ゼブル卿か。」
「何、知ってたのっ?」
事も無げに答えたヴォルに、ベンダーツさんが大袈裟に驚いています。もしかしなくても、ベンダーツさんが捜していた人物はそのゼブルさんとやらだったのでしょう。
「知っていた訳ではない。集団の中で一人、異質な気配を纏う男がいたのだ。」
「何だよ、姿を現すなら早くしろっての。俺、結構ビビりながら人捜ししてきたのにぃ。」
力が抜けたように床にしゃがみこむベンダーツさんです。
「お、お疲れ様でした。…ところで、そのゼブルさんってどういう方ですか?」
私はベンダーツさんの勇気に敬意を払いつつ、名指しされいる人物の事が気になりました。卿って事は、爵位を持っている方なのですよね?
「セグレスト・ゼブル伯爵さ。」
スッと立ち上がったベンダーツさんは、先程の落ち込みからもう回復していました。




