1.鎮まるまで待つか【2】
「どうしてもか?」
首を傾げた私に、再度ヴォルが問い掛けます。そ、そんな念を押されると…困ってしまいますが。
「まぁ…平和育ちのメルシャ様には少々刺激がキツいかも知れませんが、世の中の敵は魔物だけではありませんからね。宜しいのではありませんか?」
「…仕方ない。」
な、何でしょう。二人が視線を合わせ、意気投合してしまっている感じがしますけど。しかも、良い感じのしない雰囲気です。
「Eizou wo Miseyo.」
ヴォルの声が響きました。魔力を乗せた音です。そして、それが起こりました。
「っ?!」
まず始めに映ったのは町長さんの部屋の壁でした。次に、扉…があった筈の場所。けれども既に扉はなく、知らない男の人達がいました。五人くらい?しかも、手には棍棒や包丁を持っています。
「な…っ。」
そして反対側に視線を移した私は、そこで信じがたい光景を目にしてしまいました。窓ガラス…ガラス自体高価なのでお金持ちのお屋敷にしかないのですが、それを粉々に打ち破って侵入して来ている町民です。数え切れない程…手には斧や鍬や鉈等を持っていました。
これ、何の暴動ですか?
「これくらいで良いでしょう。分かりましたか、メルシャ様?」
ベンダーツさんの言葉と共に、映像が一瞬の内に途切れます。ヴォルが再び結界を強めてくれたようでした。でも私にはその心の余裕がありませんでした。カタカタと小刻みに震え、ヴォルの服にしがみついていたのです。
「メル。」
耳元でヴォルの声がします。ゆっくりと彼に視線を向けると、ボヤボヤと顔が歪んで見えました。あ…れ…?私、泣いてます?
「あちらには結界の中は見えないようですね。それでも、私達がここにいる事を分かっての行動なのです。」
「ど…して…っ。」
震えて言葉に出来ませんが、言いたい事はベンダーツさんが読み取ってくれました。
「何者かがあらぬ事を吹き込んだのでしょうね。私たちに対する明らかな憎悪が感じられましたから。どうされますか、ヴォルティ様。」
「…首謀者を捜す。」
「そうですね。しかしながらそれなりの力を持つ者でしょうから、これもまた面倒な事になりそうですね。」
ヴォルとベンダーツさんが黒幕についての推理を話始めました。も、もしかして。
「町長…さん?」
「いいえ。」
うわ…、即否定されました。
「彼は違います。ただの小心者でしょう。現にヴォルティ様とメルシャ様の待遇は変わらなかったようですし。そのくせ私を己の屋敷地下に監禁とか、支離滅裂すぎです。」
あぁ、根に持っていますね。…当たり前でしょうけど。傷は癒えましたが、痛みの記憶がなくなった訳ではありませんから。




