6.気に入らなかったか【3】
気に入らなかったか…って、聞きました?えっと…、腕輪の事でしょうか。
「腕輪、ですか?」
分からないので素直に聞いてみます。
「そうだ。」
視線を合わせる事なく、そのままベッドに腰掛けるヴォル。何故でしょう。少し辛そうに見えるのは、私の気のせいでしょうか。
「夫婦の証がない、と言われた。」
言われた…となりますと、あの大勢の人と話していた時でしょうか。私は子供達と遊んでいたので、ヴォルが何を話していたのかは分かりません。
「結婚はまだしていないと答えたら、婚約の腕輪の事を言われた。」
淡々とですが、ヴォルが告げます。ですが形だけの結婚をする私達に、その様な物は必要なのでしょうか。
「メルは、そう言うのは嫌いか。」
「え?」
ヴォルが漸く私に視線を向けました。瞳が僅かに揺れています。えっと、私の気持ちはここでは必要なのでしょうか。迷います、困ってしまいます。でも…ヴォルが真っ直ぐ私を見ています。嘘も隠しも、してはいけないような気がします。
「う…、嬉しいです。形だけとはいえこの様な立派な腕輪を貰えるなんて…、思っても見ませんでした。」
好きになってはいけないと、心に刻みます。でも、嬉しい気持ちは本当です。婚約なんてした覚えもないですけど、ヴォルが少しはそう思ってくれているのかもと思うと…本当に嬉しいです。
「そうか。」
あ…今凄く、フワッとした空気が流れました。いつもの淡々とした口調でも、ヴォルがホッとしたのが伝わりました。
「はい。」
私は嬉しくなって、自然と笑顔になりました。こう言ったヴォルの僅かな感情の変化を感じられると、何故だか嬉しくなります。
「少し出てくる。」
ヴォルがベッドから立ち上がりました。
「あ、お仕事がありましたね。」
「…勝手にうろちょろするな。」
言葉はキツいですが、恐らく心配してくれているのでしょう。先程変な人達に連れていかれそうになった私です。はい、一人で出歩いたりしません。
「ここにいます。」
「そうか。」
ヴォルは一度私の頭に手を置くと、そのまま部屋を出ていきます。それを見送り、私は近くの椅子に腰掛けました。何だか、少しの間に色々ありました。




