4.貴族だろうが俺には関係がない【5】
「私ね、商人になりたかったの。家の為ではなく、自分の為に生きたかった。」
ユーニキュアさんのその視線は遠くを見ていました。でも既に終わった事のように夢を語ってはいるものの、彼女はとても輝いていました。
「それなのにもうダメね。商団もなくなってしまった…。あ~あ、これで私の自由も終わり。後は両親の為に家の為に、この身を捧げなくちゃ。」
「諦めてしまうのですか?」
私の言葉に、偽りの仮面をつけたユーニキュアさんが微笑みます。
「そうよ。今回が最後のチャンスだったもの。私、19になるの。夢見る少女じゃいられなくなったのよ。」
「夢を見るのに年齢制限があるのですか?」
「当たり前じゃないの。結婚して子供を育てなきゃならないのよ?夢の中では王子様が来てくれても、実際に王子様なんてみつからないわ。長女なら家を守る為にお金持ちと結婚しなくちゃいけないし、子孫を残して繁栄させなければならないの。」
僅かに微笑んではいますが、これって本心ではないですよね。だって、瞳に先程のような輝きがないのです。
「ユーニキュアさんの思いは、そうではないですよね?商人になりたいのではないのですか?」
「…なりたいわよ。でも、思ってるだけじゃダメだもの。私は長女なの。家を守るのは当たり前の事。」
「その為にご自分を犠牲にされるのですか?」
これって、私の自己満足ですよね。不意に冷静になりました。私は今ユーニキュアさんの事ではなく、ヴォルの事を思って怒っているようです。勝手なのは私ですよね。
「ごめんなさい。」
「…良いのよ。貴女の言いたい事も分からなくはないもの。」
謝罪した私に対し、ユーニキュアさんは力なく微笑みました。
「本当は私もそう思って、無理矢理この商団を率いて町を出たの。…でも結果がこれ。商団の仲間も荷物も、皆ダメにしてしまったわ。もう言い訳が出来なくなっちゃったもの。」
「ご両親は、ユーニキュアさんの夢の事を知っているのですか?」
「教えた事なんてないわよ。それに、言ったところで無駄なんじゃないかしら。だって貴族は、家を反映させていかなくてはならないもの。」
固定観念というものでしょうか。幼い頃から当たり前と聞かされて、それ以外の事実を知ろうともしていないのです。もっと良い方法があるかもしれないのに。
何だか悲しいです。ヴォルもそうでしたけど、地位や権力を持った方々はそういうものなのでしょうか。




