≪Ⅵ≫気に入らなかったか【1】
≪Ⅵ≫気に入らなかったか
「あ、あの…ヴォル?」
意味を問おうとして見上げるが、フイと視線を逸らされてしまいました。とその時、お店の中から女主人が現れます。
「お客さん、お釣りお釣り。急に飛び出して行っちゃうから、驚いたよ。あ、その娘さんが貴方の思い人かい?可愛い方だねぇ、腕輪も良く似合うじゃないか。迷って選んだかいがあったじゃないの。」
「…あぁ。」
気まずい雰囲気、でしょうか。ヴォルが珍しく戸惑っています。でも、迷いながら選んでくれたって…本当ですか?見上げたヴォルの顔はいつもの無表情でしたが、瞳が不満の色を浮かべています。私に聞かれたくなかったようですね。
「あ…ありがとうございます、ヴォル。」
私からヴォルの腕に触れ、御礼の言葉を紡ぎます。でもこれ、凄く恥ずかしいですね。普段は私からヴォルに触れる事はあまりないのです。大抵ヴォルが私に触れてきますから。だから余計に意識してしまいます。
「問題ない。」
相変わらずのぶっきらぼうの言葉。でもこれが照れ隠しなのだと、今はとても良く分かります。
「でも婚約の腕輪も知らなかった男なんて、ワタシャ初めて見たね。さっき聞いたんだがって入って来るから、驚いたよ。他の男に取られないように印をつけておくもんなんだから、しっかり縛り付けておきなよ?けどこんなに可愛いんじゃ、印があっても言い寄って来るだろうけどね!」
一人で盛り上がっている女主人ですが、ヴォルと私はそんなに情熱的な関係ではないのです。何しろ、形だけの結婚相手に選ばれた私です。しかも誘拐されてきましたから。ヴォルは自分に対し、特別な感情を抱いていない私が必要だっただけです。好きだから結婚する訳ではありません。だいたい、可愛い可愛いって私は人並みです。分かっていますよ、ヴォルに不釣り合いな事くらい。
するとここで私は一つの結論にたどり着きます。もし私がヴォルを好きになったなら…、この関係は破綻するのではないでしょうか。ヴォルはその無駄に良い見た目から、女性に不自由はしていないでしょう。それでも私を選んだのです。自分に興味を持っていないからと言う理由で、です。
「どうした、メル。」
ヴォルに声を掛けられて気付きました。一人で赤くなったり青くなったりしていたようです。




