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「結婚しよう。」  作者: まひる
第六章
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1.精霊の泉だろ【5】

「精霊さん、いなかったですね。」


「あぁ。」


 ヴォルと集落に戻る最中の森の小道です。木々の緑が色濃いのは、結界に守られているからでしょうか。


「だがここは本当に自然豊かだ。結界の邪魔がなければ、すぐに精霊も自らを癒す為に集まるだろう。」


「癒す…のですか?」


「そうだ。自然界の恩恵を一番得ているのは精霊だろう。精霊力は自然力と似ている。休めば全回復するようなものではなく、周囲の良い気を自らの体内に取り込んでいく事によって回復していく。」


 つまりは、自然豊かなところにいないと回復しないという事なのですね?…あれ?でも、ヴォルの周りにいる精霊さんは違いますよ。


「ヴォルの精霊さんもですか?」


「基本はな。だが人についている精霊は、普段から魔力を取り込んでいる。自然が豊かではない土地でも、自らの精霊力の補給は出来ているようだ。」


 何だか、精霊さんにも色々ありそうです。


「あの泉にも、精霊さんが戻ってくると良いですね。」


「そうだな。大陸内に土地はいくらでもあるが、自然豊かな土地となるとそうもいかないだろう。精霊つきが現れなくなった理由は分からないが、精霊自体の住みかも奪われていっているのかも知れないな。」


 あちらこちらに魔物がいるのは知っています。町と町の間は自然環境が厳しく、人の住みにくい場所である事を前回の旅で目にしました。そして同時に、決して自然豊かな土地が人の住む場所ではないと言えます。


「この辺りで良いか。」


「はい?」


 急に立ち止まったヴォルです。辺りを見回して、何をされるのですか?


「水浴びだ。」


「あ…、はい。」


 集落に戻っているのかと思ったら、そうではなかったうです。いつものように周囲に結界を張り、大きな水球とそれを温める火の魔力を作っていました。


 私はそれをただ眺めているだけですが、ヴォルのこの魔法はとても助かります。いつでもお風呂に入れるだけではなく、洗濯同時ですからね。一石二鳥です。もう服を着たままヴォルと一緒に入るのにも慣れましたし。


「メル。」


「はい。」


 水の魔力で作った球体が温まると、いつものようにヴォルに手を差し伸べられます。初めは怖かった魔法に入るという動作も、今では当たり前のものとなっています。


「温かいです。」


「そうか。」


 ホッと息をつき、この状況に慣れすぎている自分に呆れもします。それでもヴォルに後ろから抱き締められるこの様な行為は、もはや私から切って放せないもののようでした。



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