10.クスカムの人間は穴熊か?【2】
「その細っこい少女が回復?まだ子供じゃないか?」
「そうなんだよね、子供に見えるけど成人はしてるから。でもそうなると俺の怪我だけではなくて、心も癒してほしいくらいなのに。あ、ダメだよ?魔剣士と出来てるから、手を出すと殺される。ほら、彼女の左手首を見てよ。腕輪つきなんだから。」
ザワリと男の人達の気配が動いた途端、相変わらずのにこやかさでベンダーツさんが酷い事を言いました。と言うか、腕輪の事を話しても大丈夫なのですか?
「本当だ。…だが、魔剣士の方はしていないぞ。しかも、精霊つきじゃないか。」
「あ、気付いちゃった?ほら、ヴォル。どうするよ?まぁ、精霊つきってのはどうしようもないけどな。」
急にヴォルへ話を振るベンダーツさんですが、だって左腕はセントラルにあるわけで…。
「煩い、マーク。精霊は俺の意思とは関係がない。それに腕輪は…持っているがつけていないだけだ。」
「えっ?」
その言葉に驚いたのは私の方でした。しかも出された腕輪は、首元の紐でペンダントトップのようにされています。大きすぎますが。
「…すまない、メル。つけたくない訳ではなく…。」
でも途中で口をつぐんでしまいます。それを噛みつくようにして、ベンダーツさんが続けました。
「ったく、右手で良いか聞くだけだろうが。しょうがねぇだろう、左腕をなくしちまったんだから。」
「…すまない、メル。」
「あ…、いえ…。持っていて頂けただけで…、嬉しいです。」
もうここにはないと思っていたのですから。あ、ダメですね。涙が出てきてしまいます。悲しいのではなく、嬉しいのですよ?
「あ~、泣かした!」
「…すまない。」
「ち、違います…っ。わ、私…嬉しくて…。」
「メル…。」
「くぅ~、良いじゃねぇか。羨ましいなぁ~。精霊つきでもまともな奴がいるんだな。」
「だよなぁ。良いよな、腕輪。俺等も早く嫁さん捜さねぇと、子っこを母ちゃんに見せられなくなっちまう。」
「だなぁ。俺ん所の母ちゃんも歳だからなぁ。」
ポロポロ涙を溢す私を抱き締めるヴォルです。そして集落の人々はそれを見て、それまで持っていた警戒を完全に解いたようでした。
「すいませんねぇ、内輪揉めを見せちゃって。それであの…、食事だけでも~。」
タイミングを見計らってか、ベンダーツさんが男の人達に再度笑顔を見せます。
「あぁ、良いよ。ただし、ただとはいかねぇよな?」
「勿論だよ。俺等冒険者は、家はないが金を持っているんでね。」
この笑顔のベンダーツさん、普段仕様になりませんかね?…あ、やっぱり怖いから遠慮します。




