8.己が手のように【3】
「ヴォルティ様。お止めになられるようにご忠告差し上げましたが。」
ベンダーツさんが魔物と対峙しながらも冷たく告げてきます。
「試さなくては分からないだろ。」
それでもヴォルは大して気にもせず、掌を広げたり閉じたりしていました。動きの確認なのでしょうか。
「感覚がないから分からない。焦げてはいないが。」
「その素材自体が微量の魔力を放っている特殊な木材です。簡単に燃えたり凍ったりはしないと思われますが、あくまでも義手です。」
自分の手ではないと言いたいのでしょうか。冷たい口調とは裏腹の、心配性なベンダーツさんなのです。まぁ、それを表に出さないのはヴォルと一緒ですね。
「己が手のように使えなくては意味がないだろう。」
ヴォルの方へベンダーツさんの意見が伝わっている様子はなく、あくまでも自分の感覚を見極めようとしているようでした。義手は魔力を通していると聞いたので、魔法として放つ魔力とは別の微調整が必要なのでしょう。
でもそこはさすがと言うべきでしょうか。その後幾度も魔法を放っている間にその感覚を掴んできたらしく、ヴォルが放つ魔法の精度と威力が増してきたように見えました。
「昔から実践で身に付くタイプなのですよね。…後でメンテナンスをしなくてはなりません。」
小声で呟いたベンダーツさんです。ヴォルの事を良く分かっていますね。何だかんだと、二人は良い関係を築いているようです。…羨ましいですよ。
「…終わりだ。」
「はい、こちらも終わりました。」
二人が魔物の掃討を終え、私の方を振り向きました。何だか…、あれだけの魔物の討伐も全く苦ではないようです。凄いとしか言いようがありません。
「お、お疲れ様でした。」
ペコリと頭を下げます。勿論、辺り一面に魔物の肉片が散乱していました。それでも、私は気分を悪くしていられる立場ではありません。
「…大丈夫か、メル。 」
「魔物の死体に気分を悪くされるようでは、共に討伐の旅などお辛いだけではありませんか。」
うっ…、言われてしまいました。強がっていても、既に顔色が悪いのかもしれません。
「す…。」
「問題ない。メルは俺が守る。」
謝罪しようとした私の言葉を遮り、ヴォルが後ろから抱き締めてくれました。不安に思っている事が見抜かれてしまっているかもです。
「何かお手伝い出来る事はありませんか?」
討伐に参加は出来ませんが、薬草の知識はベンダーツさんから教わりました。って言っても、ヴォルも知っているのでしょうけど。あれ?私って、本当に足手まといなだけですか。




