8.己が手のように【2】
私達はそのまま南下し、低木草地帯を進みます。
「このまま行くとサガルットの町に着きます。」
「このバニグレール平原は獣型の魔物が多いからな。これだけ開けていれば接近に気付かない事はないだろうが、サガルットの町まで少なくとも五日は掛かる。お前は久し振りの実戦だ。面倒だからバテるなよ。」
「心しておきます。」
軽口を言い合うヴォルとベンダーツさんです。でも先程の戦闘を見る限り、ベンダーツさんもかなりの強者のようでした。
「また来ましたよ?」
私はウマウマさんに乗っているだけなので、キョロキョロと周囲を見回していました。ぅわ~、何だか砂煙が近付いて来るのですが。
「今回の旅は魔物討伐がメインだからな。結界を張り続ける事はしないが、メルには絶対近付けないから安心しろ。」
「はい、分かりました。」
魔物に関してより、ベンダーツさんが討伐した後が怖いです。…言えませんけど。
二人が剣を構え、私はウマウマさんと一緒に結界の中で待機です。相変わらずウマウマさんは全く物怖じせず、足元の草をのんびりと食んでいました。
魔物は四足歩行タイプの獣型で、先程のより全体的に白くて大きかったです。人の二倍程の体躯を持ち、後足で立ち上がりもしました。飢えているのか、仲間が殺られても気にせず突進してきます。
「気性が荒いですね。」
「あぁ。腹部のへこみを見ると、長期に渡って餌が捕れていないようだ。」
「繁殖し過ぎで、餌場に窮しているのですか。迷惑ですね。」
「その分 纏めて討伐出来る事を良しとするか。Honoo no yari.」
ヴォルが魔物に向け、火の槍を複数放ちます。やはりこれだけ数がある場合には、魔法での複数攻撃の方が分があるようです。左手に闇の剣を持ったまま、右手から次々と魔法を繰り出していました。
「ヴォルティ様、義手では魔法を放出させないようにお願いします。」
「何だ。燃焼するのか。」
「いえ、それは何とも言えませんが。義手自体に巡らせた魔力に差異が生じれば、動きに不自由が出るかもしれません。」
「それならば逆に試してみる。Honoo no tama.」
ベンダーツさんの忠告を無視し、ヴォルは左手で魔法を使い始めました。先程とは違い、魔力の炎の色が白っぽいです。それでも火の玉を作り、幾つも魔物に向けて放出しました。
「…加減が難しいな。」
その後の掌を確認するヴォルです。って言うか、手袋が燃えてなくなっていませんか?!木製の義手を包んでいた手袋が炭となり、ハラハラと舞い落ちたのでした。




