5.泣くな【5】
「兄さんはこれからどうするつもり?僕を罪人としてつき出して、晴れて皇帝になるの?」
「またその話か。だから初めから、俺は皇帝にならないと言っている。」
あ、そう言えば正式な跡継ぎ候補はペルさんだと言っていましたね。って言うか、罪人として?
「それにお前を罪人などでつき出しはしない。俺が出ていくしな。」
はい?何やら違う感じになってきました。二人の会話に一人で百面相になっている私です。
「出て行くって…。何を言っているのさ、兄さん。そんなの、許される筈がないでしょ?」
「皇帝に話はしてある。」
いつの間にですか?
「いつの間に…。って、メルシャさんはどうするのさ。また魔物のいる外に連れ出す気かい?」
「……。」
視線が一斉に私の方へ向きます。ど、どうしましょうか。だいたい、今の話自体が初耳なんですけど。
「メル…。」
重い口を開くかのようなヴォルの声に、勢い良く開かれた扉の音が重なります。…ぅわ~、皇妃様ではないですか。
「ペルニギュート、貴方…っ!」
ペルさんに向かって叫ぼうとして、ヴォルと私に気付いたようでした。ハッとしたように顔を強ばらせています。まぁ、ペルさんはまだヴォルの結界の中に入っていますし。と言うか…ここの結界は先程のベンダーツさんの侵入といい、他者を拒絶するものではないようですね。
「貴方が…っ、貴方が犯人ねっ!貴方がペルニギュートを操って、この城を乗っ取ろうとしたのでしょうっ?」
皇妃様の中では、完全にヴォルが悪役のようです。
「母上、違います。これは…。」
「ペルニギュートは黙っていらっしゃい。もう許しませんからねっ!いくら王が庇い立てしても、最早許される事ではありませんっ。この壁を早く取り除きなさい。」
説明しようとしたペルさんを一言で静まらせ、一方的にヴォルに詰め寄ります。そしてペルさんの結界の解除を命じていました。
「母上、話を聞いてください。兄さんは…。」
「早くなさいっ。これ以上我が物顔にさせるものですか。帝位も財産も何一つとして渡しませんからねっ。」
改めて切り出そうとしたペルさんでしたが、見事に無視されました。あぁ、この人は…。息子さんの話を聞いてあげてくださいよ。
ヴォルに詰め寄り、もう少しで殴りかねない勢いでした。そして、漸くペルさんの結界が弾けます。どうやら条件を満たしたようです。
「母上…っ。」
「あぁ、ペルニギュート!さぁ、行きますよ?王に進言しなくてはっ。」
解放されたペルさんの話を聞く事もなく、強引に腕を引いて広間を退室していかれます。まぁ、十歳くらいのペルさんが犯人などとは誰も思わないのでしょうけど。
それにしたって、酷くありませんか?!




