4.お前が一番【3】
「だが今は…出来れば回避したいと、そう思う自分がいる。」
「それは私が言ったからですか?」
ヴォルが魔法石になってしまうのは嫌だと、私が言ったから。
「それもあるが………メルと共に生きていきたいと、心から思うからだ。」
「ヴォル…。」
「あ~あ、またノロケ?全く、ご馳走さまでしたっ。」
見つめ合うヴォルと私に、ペルさんが大きな溜め息をつきながら大袈裟に言いました。
「ペルニギュート。」
「なぁに、兄さん。」
「城に掛けた睡眠魔法を解除しろ。」
「嫌だ。」
即答するペルさんに、ヴォルは何かを見極めるように見つめます。
「…理由は。」
「僕は僕の力を使って…出来れば兄さんの身体が欲しいけど、実力主義の世界を作るから。その為には、この城の組織そのものが邪魔なんだよね。ちなみに、兄さんとそこの彼女さんには魔法が掛からなかった。たぶん、兄さんの精霊の加護が掛かっているからじゃない?」
全く悪気のないペルさんの話に、私は怒りが溢れてきました。利己主義も大概にしてほしいです。
「あのですね…実力主義だなんて、こんな狭い世界にいるから分からなくなるんですよっ。ペルさんも、ご自分で世界を見てくれば良いのです。皆、自分達の力で精一杯生きてます。」
「何言ってるの?」
「本当だ。地位や権力にしがみついているのはごく一部の貴族階級の奴等だけ。他の町や村では、それぞれが汗水垂らして日々の暮らしをしている。魔物の恐怖とも戦い、権力者に税をむしり取られても負けずにだ。」
旅をしたヴォルと私は、実際に自分の目で見てきました。
「そんなの…。」
「事実だ。お前こそ、現状に文句を垂れているだけの子供にすぎない。」
無い物ねだりをしても始まりません。無いものをもらうより、あるもので工夫をしていかなければならないのです。
「確かにペルニギュートは身体が弱いかもしれない。だがその立場は誰にも引けを取らないものであり、乞われさえすれども下に見られるものではない。お前は正統な帝位後継者なのだから。」
ペルさんを真っ直ぐ見つめ、ヴォルが真摯に告げます。
「僕は…。僕は帝位なんかいらないよ。兄さんがいれば良い。僕にとって一番欲しいのは兄さんだから。」
「…悪いが、俺はお前が一番ではない。」
「分かってるよぅ…。でも彼女と一緒にいる時の兄さんは凄く輝いてるから、仕方がないから兄さんの一番は譲ってあげる。」
「はぁ…、ありがとうございます?」
なんと言うか…、少しは私を認めてくれたという事ですか?でもこの二人、とても仲が良いですね。




