1.俺だけの【4】
「部屋にでも飛ばしておきましょうか。」
「あぁ、今はグラセリーナ抜きで話がしたい。」
皇帝様の返答に一つ頷き、ヴォルはすぐに皇妃様を包み込んだシャボン玉を消してしまいました。
「大丈夫なのか?」
「向こうに飛ばしてから結界を解除しましたから、最悪またここに乗り込んでくるでしょうね。まぁ、今はここに結界を張ってありますが。」
「そうか。では、先程のグラセリーナの声は。」
「問題ありません。」
いつの間に結界を張ったのか、皇帝様の部屋は防音になっているようです。
「それで、ヴォルティはどうしたい。」
「…前にも言いましたよ。」
「今も気持ちは変わらないのか。」
「えぇ、変わりません。」
「そうか。」
話の本題の見えない会話でした。でもヴォルは、自らの意思を皇帝様に伝えてあるようです。私は先が見通せる訳ではありませんが、彼の思いがねじ曲げられる事がないようにと祈ります。
「分かった。少し時間をくれないか。」
「はい。」
「メルシャも、すまなかったな。」
「いえ…。」
それきり、皇帝様は疲れたように近くの椅子に腰掛けてしまいました。私はヴォルに促され、ペコリと頭を下げて彼と共に退室します。
「大丈夫ですか?」
廊下に出た途端、疲れたように溜め息をついたヴォル。
「問題ない。ベンダーツ、食堂の修繕を頼んだぞ。」
「はい、ヴォルティ様。」
私に答えた後、廊下に控えていたベンダーツさんに指示を出します。そう言えば、かなり食堂は壊れていたような…。
「戻るぞ、メル。」
「は、はい。」
思考に沈んでいた私は、突然自分に声を掛けられて驚いてしまいました。でも、ヴォルの顔色が少し悪いです。出血の為でしょうか。
私は寄り添うようにヴォルを支え、部屋までの道を行きます。ただでさえ長い廊下が、今日は一段と距離を感じるものになりました。
「疲れたな。」
部屋に戻ってすぐ、ヴォルはベッドに身体を沈めました。やはり辛いのでしょうか。
「少し寝てください。」
「…嫌だ。」
「ダメです。たくさん出血したのですから、水分をとって身体を休めないと良くなりませんよ?」
「それなら、メルがいないとな。」
はい?何故私が…。なんて疑問に思っている間に、ベッド引き込まれてしまいました。
「あの…。」
「俺だけの抱き枕だからな。」
俺だけの…ですか。それでも悪い気がしない私は、十分にヴォルに染まっているようです。
「そうですね。」
そしてまた日の高いうちから横になってしまった私達でした。お休みだからって、こんな生活ばかりしていては良くないですよね。でも、今だけ。今だけは…許してくれますよね。




