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「結婚しよう。」  作者: まひる
第四章
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10.俺を男だと認識しておけよ【3】

 ガルシアさんが来て着替えをし、いつものようにヴォルと朝食をとっていました。特に話す事をしなくても穏やかな空気が辺りを包み込んでいて、食事の用意をしてくれる侍女さん達にも大分慣れてきた私です。


 ところが。バタンッ!!と大きな音を響き渡らせ、ある人物が乱入してきました。


「…母上。」


 そう、現皇帝様の奥方であられる皇妃様です。


「何をしているのっ!?」


 第一声からして激しいですね。私は扉の音を聞いた時から既に畏縮してしまっているので、まともに彼女の顔すら見る事が出来ないでいました。


「何を、と言われますと?」


 ポトリとフォークに差した果物を落としてしまった私の手をソッと握りつつ、真っ直ぐ皇妃様へ視線を向けたヴォルです。その横顔は表情の一切が消えていました。


「まぁ、(トボ)けるつもり?側室の件よっ。せっかく官僚側が貴族の令嬢を何十人も用意しているのに、一人も通っていないなんてどういう了見なのよっ。」


「俺は全てを断りました。側室なんて必要ないです。」


「貴方の意思こそ必要ないものよ。これ以上低俗な血を入れないで頂戴っ。」


 低俗…。つまりは、貴族でない事を言われているのでしょうか。


「側室の誰にでも良いから種をつけておきなさい。大体、二日も三日も公務を休むなんて許しません。これも貴方の(ツト)めです。分かりましたね。」


「嫌です。」


 え?…ハッキリと拒否したヴォルの言葉に、私だけではなく皇妃様も驚いたようです。目を見開いて一瞬固まった後、再び真っ赤になって怒り始めました。


「何ですって!」


 今までそう言われた事がなかったのか、自分の言葉が否定された事に酷く腹を立てたようです。そして怒りに任せて、手近にあった小ぶりの花瓶をこちらに向かって投げ付けました。


 私はスローモーションのように、花瓶が飛んでくるのが見えました。いくら小ぶりとはいえ、人の頭以上の大きさはあります。当たったら…、危ないですね。死にますかね?


 ガシャーン!!バシャッ!


 花瓶の割れる音と水の音が響きました。いつの間にか目を固く閉じていた私は、何かがポタポタと腕に滴る感触にゆっくりと顔を上げました。


「っ!?…ヴォル…っ。」


 心臓が止まるかと思いました。ヴォルの頬を伝う赤い筋と、彼の肩に残る花瓶の割れた欠片。下を見下ろすと、水も欠片も私を避けるように後ろに飛び散っています。…明らかに守られた私。


 青ざめました。再度見上げると、出血から片目を閉じているヴォルがいます。嘘でも冗談でも夢でもなく…、これは目の前で起こった出来事でした。



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