≪Ⅹ≫俺を男だと認識しておけよ【1】
≪Ⅹ≫俺を男だと認識しておけよ
あ~…、何か朝の声がします。でも…動けません。
「起きたのか、メル。」
「…おはようございます、ヴォル。」
後頭部からの音声に少し掠れた声で答えます。いつものように…結局後ろから抱き締める方が寝やすいらしく、抱き枕状態なのです。いつもとちがうのは…、肌が直接触れているという事だけで。
「水を飲むか?」
「…はい。」
半身起き上がったヴォルが、ベッドサイドの水差しから注いでくれます。あ…、動けませんでした。情けない顔をしていたのでしょうか。ヴォルが僅かに口許を緩めた後、私の首筋に腕をまわして頭を起こしてくれました。
「あ、ありがとうございます。」
そのまま飲ませてもらい、本当に申し訳ないです。おまけに私の空気の読めないお腹がクゥ…、と鳴いたではありませんか。
「…すみません。」
顔が熱いです。ヴォルはクックッと笑っていて、本当にこの人が無表情だったなんて信じ難いですね。
「もぅ…、笑いすぎです。」
「すまない、あまりにも可愛くて。」
ふて腐れてみると、またまた意外な反応が返ってきました。柔らかく微笑んだまま頭を撫でられ、逆に困ってしまいますよ。
「湯に入るか?」
「あ…、入りたいのですが…。すみません、動けません。」
足腰に力が入らないという感じでして、微妙に筋肉痛でもあります。
「問題ない。俺が連れていく。」
「あ…、え?」
はい、私の返答は必要なかったです。答える前に抱き上げられ、そのままお風呂に連れていかれました。って言うか、シーツくらい掛けてくださいよ!
「…まさか、抱き付かれるとは思わなかった。」
驚きを押し殺したような声でしたが、私はそれに気付ける心の余裕がありません。何も身に付けていない状態で姫抱きされているので、それを隠すにはヴォルの首に掴まるように抱き付くしかなかったのです。
「み…見ないで、下さい…っ。」
恥ずかしさのあまり、消え入りそうな声で訴えます。
「散々見ているから今更だろ。」
「い、今更でもダメなのですっ。」
「そう恥ずかしがられると、余計に俺のものだと主張したくなる。」
言いながらも器用に扉を開けて進み、もうお風呂場でした。昨夜と同じ様に、水と火の魔法を唱えます。そう言えば、魔法をこの様な…普通の生活に使っても問題がないのでしょうか。
「入るぞ。」
「はい…え?あ、ありがとうございます。」
ボンヤリしながらの返事をしてしまい、お湯に共に入ってから我に返ってお礼を告げました。…一緒にですか。お湯の中で下ろしてはくれましたが、私の腰元をしっかりと抱き留めてくれています。この状況、どうなんでしょうか。




