9.限界だ【2】
「その為に………時間を作る為に、公務を詰めたんだ。」
視線を逸らしながらヴォルが答えてくれるのですが、すみません。私には言葉の意味が分からないです。思い切り首を傾げたのを、ヴォルは雰囲気で感じたようです。小さく溜め息をつかれ、私は彼を見上げました。
「…その………最近…、あまり話せなかっただろう。」
言いにくそうに告げるヴォルです。えっと…、あまり話せなかった…から?そんな問答をしている間も歩みは止まる事がなく、いつの間にかヴォルの部屋に着いていました。
「アイツが…、時間は作れと言うし。」
ヴォル、私と話す時間を作る為にお仕事をたくさんされていたのですか?扉を開けて中に入りつつ、ブツブツと呟くヴォルを初めて見ました。
「一週間程の仕事は片付けた。だから…。」
「本当に?…一緒にいられるのですか?」
言葉が自然と出てきます。深く考える事など、必要ないくらいに。
「あ、あぁ。………嬉しいのか?」
少し戸惑ったようなヴォルでした。私の満面の笑みを見たから、ですかね?でもだって、嬉しいのですもの!
「はいっ。私、ヴォルと一緒にいたいです。」
「っ。…そ、そうか。」
息を呑んで視線を逸らしたヴォルでした。でも、私の腰を抱いたままです。こうして触れられるのも久し振りな気がして…、嬉しいのですけど恥ずかしいですね。
「あ、あの…。部屋に戻ってきて…、どうなさるのですか?」
抱き留められている事に恥じらいを感じ、モゾモゾとし始めた私です。
「メルとの時間を過ごす。」
ハッキリと告げられ、真っ直ぐに青緑の瞳を向けられます。な、何かドキドキします。
「嫌か?」
低い、何か物凄く甘い声で問われます。嫌な訳、ないではないですかっ。私は思い切り首を横に振ります。
「メルに…触れたい。」
言葉を聞くだけでゾクゾクしてきます。私は声も出せず、今度はコクコクと首を縦に振ります。
「キス…したい。」
ドキドキが激しすぎて、心臓が口から出てこないでしょうか。どう答えて良いのか分からないですが、ヴォルは私の返答を待っているようです。ジッと青緑の瞳がこちらを見ています。私は真っ直ぐ見る事が出来ずに、視線だけで見上げつつ首を縦に振りました。
途端にフワリと微笑まれました。ドキッ、ですよ。もう心臓が、有り得ない程高速回転です。その逆に頭は全く働いてくれず、ヴォルの匂いと声と視線にショート寸前でした。わ、私はこのまま…壊れても良いかもしれません。




