6.知りたい【5】
「綺麗…。」
ヴォルに既婚の証の腕輪をつけてもらいました。細い銀色の腕輪で、勿論ヴォルとお揃いです。表面には物凄い細やかな細工がなされていました。
「俺も…こういうのは初めてだから、何と言って良いのか分からないが。」
私を後ろから抱き締めるように包み込むヴォルは、何かを思慮するかのように一旦口を閉じました。
「男で良かったと、心から思う。メルと一つになる事が出来て…、良かった。」
そして首筋に顔を埋められて呟かれる続きの言葉は、私を真っ赤にさせるのに十分な破壊力がありました。いえ、昨日までの私なら分からなかったのですけどね。
「真っ赤だな。…マトトみたいだ。」
マトトというのは赤い丸い野菜でして、生は勿論煮ても焼いても食べられる万能野菜です。
「マトトは苦手だが…、こっちは食べたいな。」
「ひゃっ!?」
首筋を舐められ、変な声が出てしまいました。今とっても貴重な情報が開示されたのに、その刺激で何処かに飛んでいってしまいましたよ。
「ヴォ、ルっ?!」
焦りまくりの私に、ククッと笑うヴォル。どうやら、わざと意地悪をされているようです。
「も…、もぅ…。」
そっぽを向いても、後ろから抱き締められているのでさして変わらずなのですが。僅かながらの抵抗と言いますか、意思表示ですよ。
「愛している、メル。」
甘い声で囁かれ、耳の後ろに口付けをされます。途端にゾクリとした痺れが背筋を走りました。もぅ…敵わないですよ。
「メルの気持ちを知りたい。」
な…っ?!ま、まさかヴォルからそんな事を聞かれるとは思わなかったです。
「メル…。」
艶っぽい声で返答を急かされます。
「す…、好き…です。」
「…それだけ?」
それだけ、って何ですか。
「俺の求める想いとメルの想いは…少し温度差があるようだな。」
急に身体を離して、陰りのある瞳を向けられてしまいました。え…、温度差?
「あ、あの…。」
「いや、良い。今日はこれからどうするのだ。」
雰囲気の変わったヴォルに戸惑いながら、ガルシアさんに本を貸してもらった事を思い出しました。
「あの、ガルシアさんに本を貸してもらったのです。部屋に帰ってから読もうかと思っています。」
「そうか。俺はこのまま研究室に籠りきりになる。また夕食の時に、な。」
部屋の出口で見送ってくれるヴォルは、触れるか触れないか程度のタッチで頬に手を伸ばされます。青緑の瞳が何故か沈んだ色をしていました。
「はい。」
何とか頭を下げてお辞儀をしましたが…、私は何かをやってしまったみたいです。それが何か分からないまま、私の心の奥に引っ掛かりました。




