5.疲れているだろう【4】
コンコン。静かに扉を叩きます。ガルシアさんと別れた後、私はヴォルの研究室を訪れていました。何だか先程の話を聞いて、いてもたってもいられなかったのです。
「何だ。」
「あ、メルシャですっ。」
中から聞こえた淡々とした声に、何故だか凄く慌ててしまいました。今更ですけど、お仕事のお邪魔ではなかったでしょうか。
「メル?」
そんな事を考えていたら、ヴォル自ら扉を開けて迎えてくれました。
「あの…、すみません。お邪魔ではなかったでしょうか。」
「問題ない。メルならいつでも歓迎だ。」
淡々とした口調でしたが、見上げた瞳には柔らかな光が見えました。良かったです。
「あの、聞きたい事がありまして。」
本題を口にしたところで部屋に通され、散らかった机を見て少し驚きました。やっぱり忙しそうです。
「聞きたい事?」
「はい。ガルシアさんとのお話の中で、治癒魔法の精霊さんがいないとお聞きしたのですが。」
「…あぁ。」
あれ?何か違和感があります。
「違うのですか?」
「………まぁな。」
はい?思い切り疑問符のついた私の顔の前を、一人(?)の精霊さんが通過します。…ん?この子、他の精霊さんと少し違いますね。何がって言うか、光が…ですか?
「ヴォル…、この精霊さんって?」
「メルには分かるのか。」
小さな精霊さんが私の目の前で漂うので、ゆっくりと両掌を上に向けて広げてみました。すると僅かに戸惑いを見せた後、ソッと私の掌に乗ってくれたではありませんか。か、感激ですっ。
「…気に入られたようだな。」
「か、可愛いです~…。」
小さな精霊さんを掌に乗せたまま、感動にうち震えている私でした。
「ソイツは生命を司る精霊だ。」
「…え?」
精霊さんに意識を奪われ過ぎて、ヴォルの言葉を聞き逃してしまうところでした。今、何と言いました?
「まだ生まれたばかりで力はないがな。」
「生まれた…?」
「あぁ。精霊は魔力の混沌から生まれる。」
また難しい事があるものです。
「前にヴォルは、魔力から魔物が生まれると言われていませんでしたか?」
「覚えていたか。魔物は魔力の坩堝から生まれる。」
混沌と坩堝…。私には全く違いが分かりませんが、ずっと魔力を研究しているヴォルだから理解出来る事なのでしょうね。
「魔力って、何だか凄いのですね。」
私は一言、そう言いました。だってスケールが大き過ぎて、私には理解不能なのですから。
「…気味が悪いと思わないのか。」
「はい?何故ですか?」
僅かに揺れるヴォルの青緑の瞳。何か…、不安に思っています?




