≪Ⅴ≫疲れているだろう【1】
≪Ⅴ≫疲れているだろう
爽やかな風が頬を撫でます。
「…ん…っ。」
このお城に来てから半年以上経ちますが、ここはいつも穏やかな気候で暑くも寒くもないです。
「起きたか、メル。」
「はい。おはようございます、ヴォル。」
聞こえてきたヴォルの声に自然と頬が緩みます。この心地好い温かさは、最早なくてはならないですね。
「どうした、メル。」
「あ、いえ。何だか朝一番にこうしてヴォルと挨拶が出来るのは幸せだなぁと思いまして。」
素直な私の気持ちですよ。ヴォルは一瞬目を見開きましたが、すぐにフッと表情を和らげました。
「…そうか。」
「…っ!」
そしてその後の突然のキスに驚いたのは私の方で、でも何だかくすぐったいですね。お話の中の王子様とお姫様も、こんな幸せな時間を過ごしたのですかね?想いを伝えてキスをして、でもそれで終わりではないのだと知りました。
「もっとメルに触れていたいが、俺の我慢が利かなくなると困るからな。そろそろガルシアも来る頃だ。起きるとするか。」
「は、はい。」
言葉の意味を理解出来たのは少し後になってからですが、真っ赤になった私の頭を優しく撫でてくれました。その後、ヴォルは一度研究室へ行くと言って部屋を出ていきました。忙しくても私と共に食事をとるようにしてくれているので、次に会うのは朝食の時です。
私はベッドに腰掛けたまま少しボンヤリしていましたが、ガルシアさんが来る前に顔でも洗おうと立ち上がります。
「っ!」
あまりの驚きに、思わずその場に座り込んでしまいました。そのタイミングでノックの音が響きます。
「え…、あっ…はいっ。」
「ガルシアでございます。」
ガルシアさんでした。ど、どうしましょう。座り込んだまま慌てていると、声を掛けながらガルシアさんが入ってきました。私の返答が遅かったので、心配になったのでしょうか。
「メルシャ様?…あぁ、大丈夫ですよ。さぁ、こちらに。」
真っ赤になっている私の顔を見て察してくれたのか、直ぐ様歩み寄ってきてくれました。そしてあらかじめお湯と布が用意されている事を教えてくれます。
「大丈夫です、メルシャ様。これが普通ですから、不安にならないで下さいね。」
にっこりと優しい笑顔を向けてくれるので、私はやっと少しだけホッとしたのでした。何だか昨日から初めての事ばかりで、私はその一つ一つにとても戸惑います。
「さぁ、本日はこちらのお召し物ですよ。」
「ありがとうございます。」
侍女長である彼女を拘束してしまうのは心苦しいのですが、他の方々に不馴れな私を気遣ってくれたヴォルとガルシアさん本人からの申し出により現状が成り立っています。




