3.好きだ【4】
「ヴォルに意見する数少ない方々なのですから、大切にしなくてはなりませんね。」
「…そう言う受け取り方もあるのか。」
「はい?」
「いや…、良いな。確かに俺の周りにいる人間は基本、遠巻きに眺めてくるだけの奴等ばかり。大切に…か。まぁ、一番大切なのはメルだがな。」
「えっ?」
真っ直ぐ見つめられてそう告げられると、ボンッと音が出そうな程顔に熱が集中するのが分かります。本当に恥ずかしい事を平気で言う人ですね。
「あ~、やっといらっしゃいましたか。」
そんな私の後ろから、大きな声が響きました。ガルシアさんです。
「もう、待ちくたびれてしまいましたよ。さぁさぁ、早くいらして下さい。」
「分かった。だが、文句はベンダーツに言ってくれ。」
「はいはい、分かりました。さぁメルシャ様、すぐに温かいお食事を用意しますからね。」
「あ、はい。ありがとうございます、ガルシアさん。」
ヴォルの文句も半分聞きで、私にいつもの笑顔を見せてくれます。やっぱり、ヴォルにこのお二方がついてくれていて良かったです。お父様とお母様にはなれないでしょうけど、ヴォルの事をキチンと見てくださっているのが凄く伝わります。
「楽しそうだな、メル。」
「はい、楽しいと言うより嬉しいです。ベンダーツさんとガルシアさんがいたから、今のヴォルがいるのだと分かったので。」
「俺が?」
「はい。私は今のヴォルに会えて良かったです。」
ニッコリと思った事を口にします。好きになって、良かったです。
「…そうか。」
椅子に座ったヴォルの顔が少し赤いのは、この場合嬉しいのですかね?追及して先程のように頭を押さえ込まれては困ります。はい、空気を読みますよ。
でも…、不意に思い出します。私さっき、ヴォルに好きとか言われませんでした?そして私も、ヴォルの事を好きとか言いませんでした?……………ぅきゃ~!どうしましょう!?って言うか結婚しておいて今更なんですけど、初めてお互いの感情を告げたのではありません?
「あら…。メルシャ様は赤くなったり青くなったり、お忙しいようですねぇ。」
っ?!いつの間にか隣に来ていたガルシアさんです。驚きましたよ、素で。いえいえ、食事を持ってきて下さっただけなのですけど。
「あ、あはは…すみません。何かと感情が暴走中でして、ご迷惑をお掛けします。」
「若いうちだけですよ、そうしていられるのは。あ、そうそう。ヴォルティ様、ご注文の品が届いておりますよ。」
ニコニコ笑いながらも、ガルシアさんの手は仕事をしております。さすが、侍女長さんですね。




