9.気が紛れると【3】
「顔が赤いな。少し木陰に入ろう。」
うっ…、気を使わせてしまって申し訳ありません。俯いたまま頷いた私ですが、ヴォルは背中を軽く支えるようにエスコートしながら木の下に連れていってくれました。
「大丈夫か。久し振りに陽を浴びたからな。」
「あ…、そうかもしれません…。すみません、ありがとうございます。」
「問題ない。」
ごめんなさい、嘘です。一人で勝手に舞い上がっているだけですから…って、そんな事を言えないのですけど。赤くなっているであろう頬を両手で覆い、気付いてしまった自分の感情に戸惑いを隠せないでいました。
「本当に大丈夫か?」
暫くそのままでいましたが、私がいっこうに顔をあげない事を心配したのでしょうか。再度問い掛けられた…までは良かったのですが、事もあろうか顎を持ち上げられてしまいました。
本当にこの人、何故これほど女性の気持ちを煽るのが上手いのでしょうか。勿論、一気に真っ赤になりましたよ。真っ直ぐこの顔を見られる程、私の心は冷静ではなかったですから。
「…メル?」
僅かに見開かれた青緑の瞳に、私の驚いたような困ったような顔が映ります。そして何故か、その顔が近付いてきました。あ、違いますね。私のではなくヴォルの顔が、でした。
「っ?!」
思わずギュッと目を閉じてしまいます。するとピタリとおでこが当てられました。…ん?ソッと薄く目を開けて見ると、ヴォルの整った顔がすぐ目の前にありました。ドキッ!あ、目が合いました。さらにドキッ!
「熱はないな。」
…もぅ、困ってしまいます。あ、睫毛長いですね。混乱しすぎて、関係のない事に意識が行ってしまいました。
「何をしているのですかっ。」
そんな超至近距離で見つめ合っていましたら、鋭い声が飛んできました。はい、この声はベンダーツさんです。ヴォルの頭が放れたタイミングで声の聞こえた方に視線を動かすと、彼の後ろから大股で物凄い勢いで歩み寄って来るベンダーツさんが見えました。
「休憩だ。」
静かな口調でヴォルが答えましたが、ベンダーツさんは怒りオーラをバシバシ出しています。いつもキッチリと後ろに撫で付けられている灰色の髪が乱れ、少しばかり顔にかかっています。髪型が違うと若く見えますね。
「ナニをする休憩ですかっ。もう少しお立場を考えて下さいっ。」
あれ?何だかいつもより激しいですね。元々ヴォルと顔を合わせると言い合いが始まるのですけど、今回のは何処か違うようです。




