9.気が紛れると【2】
どれだけ時間が経ったのか、不意に意識が覚醒しました。あれ?…私は自分の状況が分からなかったです。
「あの…。」
「起きたのか、メル。」
何故だかヴォルが近くにいます。それもすぐ隣に。
「お、おはようございます。あの…、どうかされましたか?」
私は机に伏せて寝ていたのですが、勉強中だった筈です。そこまで思い出して、ガルシアさんがいない事に気付きました。
「あれ?ガルシアさんはどちらに?」
「ガルシアは所用で外している。」
「そうなんですか…。ところで、ヴォルはどうしたのです?」
書物を読んでいたヴォルは、その問いに本から視線を移して私を見ました。
「休憩だ。」
休憩ですか…って、私も思い切り寝ていたのですけど。
「そ、そうでしたか…。」
それ以上の言葉を続けられず、かといって真っ直ぐ私へ向けられる視線に耐える事も出来ず俯いてしまいました。ですが、その私の顎にヴォルの指先が伸びて上を向かされます。
「っ?」
「無理するなと言ったが。」
「あ…はは…っ。」
誤魔化そうとして、乾いた笑いになってしまいました。ダメですね、心配させてしまうではないですか。
「少し外に出るか。」
「え…でも…?」
「問題ない。」
戸惑う私の腕をとり、ヴォルが立ち上がります。そしてそのまま部屋を出ると、何処かに向かって歩き出しました。廊下にいる衛兵の方々も、ヴォルの顔を見て深く頭を下げるだけです。誰も何処に行くのか聞かないですね。
手を繋いだまま…正確には引っ張られているのですが、私は久し振りに建物の外に出ました。ここに来てから1ヶ月程でしょうか。ずっとお城の、しかも勉強部屋と寝室用にあてがわれた部屋を往復するだけでした。
「ぅわ~、立派なお庭ですね。」
芝が綺麗に揃えてあって、色とりどりの花が咲いています。勿論見るだけの物ではなく、外で訓練している人達もいるようです。遠くから金属音がするので、剣を合わせているのでしょうか。
「少しは気が紛れると良いが。」
呟かれた言葉に振り向いて見上げると、思いの外優しい表情がこちらを向いていました。…ま、またドキッとしましたよ。
こ、これって俗に言うトキメキ?だって、怖いドキドキでも緊張してのドキドキでもないです。ヴォルの普段はあまり見ない表情を見る事で、それが喜びとなって胸がドキドキするのですから。
「どうした、メル。」
「あ…、いえ…。」
立ち止まってしまった私に、ヴォルは首を傾げるように問い掛けてきました。…いや~ん、それだけでもドキドキしてしまいます。ダメです、重症かもしれません。




