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「結婚しよう。」  作者: まひる
第三章
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7.柔らかい顔を見せる【2】

「メル…?」


 声が聞こえました。でもごめんなさい。目が開けられません。非常に過度な精神的心労により、私の脳ミソが機能停止に陥りました。


「メル。」


 また呼ばれました。私は何とか部屋に帰ってきた筈なので、呼んでいるのはヴォルだと思うのですが。何しろ頭が全く動かないので、聴覚と記憶が連携してくれません。


「メルシャ。」


 温かいものに包まれました。…心地好い熱が私を再び夢の世界に連れていきます。フワフワと気持ちの良い感覚からか、自然と私は頬を緩めました。あぁ…、幸せです。




 部屋に戻ってみると、ベッドに倒れ込むようにして眠っているメルを見つけた。何度か名前を呼んでみたが、深い眠りについているようで起きない。


 ベンダーツが何処までするのかは分からないが、俺の婚約者という立場のメルに過度な事はしないだろう。…いや、分からないが。


 寝苦しいのか、メルの表情が辛そうだ。


 いつものように俺の腕に抱き入れる。こうすると呼吸が穏やかになり、いつもメルは柔らかい顔を見せる。…ほら。


 それを見ると俺も胸の奥が温かくなる。これは何故だろうか。だが、心地好い。


 日付が変わるまで書類の処理をしたが、全く減る気配がない。ベンダーツに()められたか。書類整理が終わればメルの傍にいて良いと確約をしたのだが、量が尋常ではなかった。


 いつまで続くのか。だがこのまま沸き上がる怒りを抑えておけると良い。…メルを怖がらせるからな。


 温かい。これ程安眠出来る抱き枕は他にないな。落ち着く。眠りに落ちる。




 あれ…、もう朝ですか?外からの日差しに、嫌でも意識が呼び戻されます。私、どうしたのでした?


「起きたのか、メル。」


「あ…おはようございます、ヴォル。起こしてしまいましたか?」


 確かヴォル、昨日は遅かった筈です。もっとゆっくり眠っていても良いのではないでしょうか。


「問題ない。メルは疲れていないか。」


「あ、はい…。あれ?昨日は結構身体が筋肉痛だったのですけど…、大丈夫みたいです。」


 起き上がり、自分の状態を確認します。うん、かなり元気ですよ?………もしかして?


「ヴォル、魔法を使いました?」


「いや、使っていない。」


「そうなんですか。寝る前より凄く体調が良いので、もしかしたらと思ったのですが。」


 小首を傾げながら答える私に、ヴォルの方も自身の手を開いたり閉じたりしています。


「…確かに。」


「ヴォルもですか?…でも良かったです。ヴォルの体調も心配でしたから。昨日、遅かったですよね?」


「少しな。」


 少しって、どのくらいですか。私が爆睡していたのですから、余程遅かったと思うのですが。でも、調子が良いのならそれだけで嬉しいですよ。



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