≪Ⅵ≫いずれ知る事だ【1】
≪Ⅵ≫いずれ知る事だ
コンコン。静かなノックが響きました。誰でしょう。
「何だ。」
「ベンダーツです。」
ゲッ、と思わず心の中で叫んだ私を怒らないで下さい。片眼鏡再登場です。嫌~っ!私はあの人が苦手なのですっ。条件反射で後ろに引いた事をヴォルに見られた私は、苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
「今行く。」
「えっ?」
まさか、ヴォルが直々に迎えるとは思いもしなかったです。ですが慌てた私を振り返ったヴォルは、優しく頭を撫でてくれました。えっと…、何でしょうか。
「メルには近付けさせない。」
そう告げて、ヴォルは研究室を出ていきました。扉が開いた一瞬、片眼鏡の顔が見えただけです。って言うか、相変わらず冷たい瞳でした。
…ホッとしたのも束の間、暫くして何故か怒っているヴォルが戻ってきました。な、何か怖いです。片眼鏡と接するとヴォルが怖くなるので、余計に会いたくないですね。
「どうかしましたか、ヴォル?」
眉間にシワが寄っていますよ。思わず手を伸ばして額に触れます。後が残ってしまったら、せっかくの美形が台無しではないですか。私と違って綺麗な顔なのにです。
「どうした、メル。」
真正面から眉間のシワへ手を伸ばす私に、僅かに驚いたようなヴォルが問い掛けてきました。
「シワが寄っていますよ。」
「……。」
何も言わず、私に眉間を伸ばされているヴォルでした。でも不意に気付いたのですが…ヴォルはただ、反応出来ないだけだったりします?
「どうかしましたか?」
小首を傾げながら見上げます。
「…不思議だな。」
「はい?」
「メルに触れていると落ち着く。怒りが消える。」
えっと…、どういう意味でしょう。私はその言葉の真意が分からず、ヴォルの額に指を置いたまま考えました。……………分かりませんが、落ち着くのなら良い事にしましょう。
私は一人で納得し、ニッコリと笑いました。あれ?ヴォルが僅かに目を見開きましたが、どうかしたのですかね。そう言えば、先程の不機嫌の理由は何だったのでしょうか。
「怒っていましたけど、何かあったのですか?」
「…あぁ。メルの教育係が決まった。」
教育係?…あ、そう言えば礼儀作法の事を言われていましたね。
「はい。」
「…アイツだ。」
「…はい?」
嫌な予感しかしませんね。って言うか、ヴォルがアイツ呼ばわりするのって…。
「ベンダーツが名乗りをあげたらしい。」
…そ、そんなものですよね。思い切り項垂れた私に、今度はヴォルが優しく頭を撫でてくれます。優しいですね、ヴォルは。




