≪Ⅲ≫抱き枕になるんだろ【1】
≪Ⅲ≫抱き枕になるんだろ
あれから幾度も魔物に襲われました。いえ、分かりますよ?魔物も生きる為に餌となるものを探しているって事くらい。けれど、私は魔物のご飯になるのは嫌です。
「どうした、食べないのか。」
焚き火の向こう側から、ヴォルが声を掛けてくれます。村を出てから何日目かの夜です。もう数えていませんが。こうして二人で焚き火を囲んでご飯を食べるのにも慣れてきて、言葉少なな彼の無表情にも大体慣れました。
そしてヴォルは約束通り、私に危害を加えません。ウマウマさんが戦闘中も安心して草を食む理由が分かる気がします。絶対守ってくれるのですから。
「食べます。」
ヴォルにとって私は、ウマウマさんと変わらないのでしょう。必要だから、守る。複雑です。お皿の減りが少ないのを気にしてか、ヴォルが私をジッと見ている雰囲気がします。
「口に合わなかったか。」
「いえいえ、とんでもないです。いつもありがとうございます、感謝しています。」
そうです。食事は毎回ヴォルが作ってくれるのです。私は料理が出来なくはないのですが、このような野外料理は作った事がありません。水も火も、ここにはないのですから。どうやって作るか。それはヴォルの魔法です。魔法で水を作り、火をおこします。何でも出来るのですね、正直羨ましいです。
「もうすぐパリーナ平原を抜ける。その後はナーヤガの森だ。」
「はい。」
僅かに与えられる情報から、私はもう村に帰れないのだと思い知らされます。本当に、あっという間に住み慣れた場所から消えた私。誰か私の事、覚えていてくれるでしょうか。
「どうした、メル。」
ヴォルは私を愛称で呼んでくれます。私がヴォルの事を正しく呼べていないからかもしれませんが。
「あの…、私が何かお役に立てる事はないでしょうか。」
食べ終わったお皿を膝に置きながら、ヴォルに問い掛けてみます。真っ直ぐ目を見る事は怖いのですが、それでも頑張って俯いた状態から視線だけを上げてみました。いつもの無表情があります。
「…特にない。」
暫く無言が続き、出てきた言葉がこれでした。ショックです。私のいる意味、あるのでしょうか。




