3.抜け出してきた【5】
「どうしてこんな女を…。貴女、ヴォルティ様にどんな手を使ったのよっ。お金?地位?権力?セントラルの次期皇帝になるヴォルティ様に、何を持って誘惑したって言うのっ?!」
あー、これ…。多分サーファさんは、ヴォルを見ていないです。見た目や飾られたモノを見ているだけで、ヴォル自身に目が向けられていないのではないでしょうか。
「ちょっと、何でさっきから黙ってるのよっ?」
何も答えない私に我慢出来なくなったのか、向かい合っている肩をドンと押されました。突然の事に私は対処出来ず、そのままフラりとよろめきます。
「っ?」
ですが、すぐに温かいものに包まれました。あぁ、この熱は知っています。
「メル。」
匂いも、声も。
「大丈夫です。」
後ろから抱き留められる形でヴォルに支えられ、耳元で静かな声が聞こえました。皇帝様のお話は終わったのですかね?問い掛けようとして見上げましたが、ヴォルの目は正面にいたサーファさんに向けられていました。
「出ていけ。」
「あ、あのっ…私はっ。」
「二度も言わすな。」
「っ?!」
ヴォルの鋭い声にビクリと肩を揺らし、サーファさんは顔を蒼くして部屋を出ていきました。…大丈夫ですかね、サーファさん。変に同情してしまった私ですが、頭の上からヴォルの声が降ってきます。
「すまない、遅くなった。」
何故私に謝罪されるのでしょう。ヴォルは皇帝様に呼ばれて行ったのですから、何も悪くないと思うのですけど。
「皇帝様のお話は終わったのですか?」
「………抜け出してきた。」
はい?あの、どういう事でしょうか。目をぱちくりする私に、溜め息をつきながらヴォルが告げます。
「席を外した時を見計らってな。…話が長いんだ。」
拗ねた様に言うヴォルを初めて見ました。やはり、父親相手だからでしょうか。いつものように見える感情は薄いのですが、半年程一緒にいる私です。普段見せないからか、尚更目をひきますよ。本当に勘違いしてしまいます。私にだけ見せている訳ではないのでしょうが、自分は特別な気がしてしまうのです。
「それで…。何を言われた。」
あ、話は戻るのですね。でも…。
「大丈夫です。」
ヴォルが何処から聞いていたか分かりませんが、あれは私に対する怒り。恐らく、これからここにいる限り続くものです。だから私は、精一杯にっこりと微笑み返しました。
「………無理はするな。」
気付いているのでしょうけど、ヴォルはそれ以上追求してきませんでした。その代わり正面を向かされ、ソッと額に柔らかいものを押し付けます。んん?何でしょう。温かい、柔らかい…。ヴォルに抱き締められているので身動きが取れませんでしたが、何やら異常事態ですよ?!




